15 約束
男は、横の建物の上から顔を見せた。
ひげが生えている。
「ファイリス、よくやった」
……誰?
「誰だ」
白ローブ女は言った。
「これより、弓の魔人の処理を開始する」
男は言った。
「一般人一名です」
ファイリスは俺を脇に抱え、白ローブ女からすこし離れた。
「え、なにやってんだよ、あれ誰だよファイリス」
「私の上司だ」
「魔人を処理ってなんだよ、あいつ、人間を見たら帰るって言ってただろ」
「処理できるなら、する。当然だ」
「当然って。あいつが人間に危害を加えないって約束守ってるのに、こっちが約束破るのか」
「魔人が約束を守るわけないだろ!」
「ちゃんと守ってたじゃないか!」
「たまたまだ。魔人はすぐ人を殺す」
男は言った。
白ローブ女は、自分を囲んでいる光る壁みたいなものに手をそえていた。
「かたいな」
「他の場所ならともかく、町の魔法陣の中で勝負できると思うな」
男は言った。
見れば、路地の建物の屋根の上に、他にも人がいた。
10人。20人。
ひょこひょこ顔を見せてくる。
「バレン班全員分だ、破れんよ」
ファイリスの上司という男は言った。
「ところで、われは、魔人などではないぞ?」
白ローブ女は言った。
「そんな尊大な話し方をする人間がいるか」
上司男はすぐ言った。
「ファイリスから情報をもらっている。トキマの負傷状況、一般人の数。魔人が同行していること。弓の魔人だ。姿を変えることも可能。一見、協力的な態度をとっているが、すでにトキマを殺す意思は見せており、やはり敵対する意思があると結論づけられる」
すると、黄色い鳥が飛んできた。
男の近くにとまる。
「あ、鳥!」
「あれの足に手紙をつけて飛ばした」
ファイリスは言った。
「あれってなんだよ!」
鳥が不満そうに鳴いた。
「手紙?」
「できそうだったのでな。先に町に連絡をした」
ファイリスは言う。
鳥、失踪ではなく、活動していた。
「手紙なんて、気づかれなかったのかよ」
「さあ。気づいたかもしれないが、とにかく鳥はちゃんと届いた」
「でも……。約束は」
「約束?」
「トキマさんが攻撃して、やり返されて、話し合っただろ。話し合ってからは、平和に終わらせるって約束して、ちゃんとやってたのに殺すのかよ」
「そうだ」
上司男は言った。
俺は見上げる。
「おかしいだろ。どっちが魔人だよ!」
「やつだ」
上司男は言った。
白ローブ女はぺたぺた壁をさわっている。
「君は魔人の味方か?」
「そういうわけじゃない!」
「では始める」
上司男はなにか唱え始めた。
他の人たちもなにかぶつぶつと唱えると、白ローブ女のまわりが光り始める。
「なにやってんだ」
「魔力で潰す」
ファイリスが言った。
「魔法?」
「いや、魔力だ。魔人には物理的な攻撃のほうが効く。魔法は逆効果になりかねないが、原始的な魔力なら直接ぶつける攻撃ができるようだ」
「なんで?」
「物理攻撃に近いんだろう」
「なんで?」
「知らん!」
光が強くなって、見ていられなくなって薄目になる。
白ローブ女は瞬時に弓矢を両方出し、上に向かって発射した。
屋根になっている部分に当たって、猛烈に光る。
壊れない。
矢を連射した。
「破られるか、潰すか」
ファイリスは言った。
「潰せたら勝ちなのか? 破られたらどうなるんだ」
俺はファイリスに言った。
「全員死ぬだろう」
「俺も?」
「そうだな」
「俺は、白ローブ女と話し合いがちゃんと通じてる派、だぞ。話し合いができない派に巻き込まれて死ぬの?」
「魔人に殺されたやつは全員そう思ってる。理不尽だと」
上司男は言った。
「一気にやれ!」
上司男が叫んだ。
「死んでいった仲間を、家族を、大切な人を思い浮かべろ! 魔人を滅ぼせ!」
白ローブ女がまぶしくて見えなくなる。
俺はファイリスに腕を引かれて離れた。
ファイリスもよく見えないようで、すぐ足が止まる。
ぎぎぎ、ぎぎぎ、と建物がきしむような音がする。
それがいっそう大きな音になって。
急にまぶしくなくなってきた。
白ローブ女がいるあたりに光が集約されていく。
白ローブ女の姿が見えた。
それが、ぐしゃっ、と上下左右から押しつぶされて、消えた。
最後は不思議と静かだった。




