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プロローグその3「ドキドキ 私たちの情事」

魔法少女―

およそ女性の1000人に1人に発症する現象である。

それは急に訪れる。

近くのものを手を使わずに動かす魔法や自然物を操る魔法、人心を操る魔法、因果律を操作する魔法を扱えるようになる。

もっとも、個人差があり、大抵の人間は手を使わずに物を数センチ持ち上げるとか、少しだけ早く走ることができるとか程度である。


シュウリのように、自分よりも巨大なものを操る力、眼に見えない部分を操る力は特異である。

それゆえに、シュウリは幼いころから、兵器として育成され、活用された。


強大な力は、個人の些細な幸福のためではなく、大きな個の幸福のために使われることを強制されるのは世の常である。


シュウリは心を隠しながら、黙々と世界平和のために戦った。

そして、11歳にして、世界最大規模の組織の中枢を壊滅させた。

その武勲によって、表向きは普通の生活を手にしたのだ。


その裏では自身の葛藤や組織の残党と闘いながら…






――――――――――

明かり煌めく街の奥、ビルとビルの隙間の暗い路地に、一体の人間が転がっている。

人間の身体には、何本もの鉄パイプが突き刺さっている。


翌朝のニュースで、この痛ましい事件はキャスターの重苦しい口調で放送された。


「―― ○○○○ 34歳 トラック運転手 と見られ。 現在原因は究明中ですが… 警察の話によると、『組織』が関与しているとのことです。 本体は解体したといっても、依然残党による事件は後を絶ちません… 皆さんくれぐれもお気を付けください――」



シュウリはTVを消し、パンを袋から取り出して、それを口に咥える。

ドアを開けると、ナオがいる。

シュウリは笑顔を向ける。

2人は歩調を合わせて、学校へ向かう。

学校でいつものように日常を過ごす。


休み時間、シュウリとナオはいつも2人で話す。

ギリギリまで話して、そして、教室へ戻る。

お昼休みには、校舎の裏で、キスをする。


ナオは運がよくない。

しばしば、落下物に見舞われる。

しばしば、ものが無くなる。


この日も、校舎裏から校舎に戻る途中、偶然上から、花瓶が落ちてきた。

シュウリは魔法で、その軌道を逸らす。



放課後は2人きりの時間である。

制服のまま、街へ行く。

おしゃれな雑貨や服を見て回る。


お揃いのヘアピンを買う。

シュウリはナオに、ナオはシュウリの髪にそれをそっと差し込む。


シュウリはフリルのついた、可愛らしい洋服を体にあてて、くるくる回る。

ナオは口角を上げてそれを見る。


タピオカ店で、ジュースを飲む。

クレープを食べる。

ゲームコーナーで一緒に写真を撮る。


ゴクゴク普通の友人同士であるかのように…




太陽が沈むころ、ナオはシュウリをマンションの玄関まで送る。

別れ際、そこで必ず口を合わせる。






そして、数刻後 夜が始まる。



明かり煌めく街の奥、人気のない雑居ビルの一部屋に、シュウリが魔法少女の装いで立っている。


その足元に一体の人間が転がっている。


シュウリは肩を震わせる。


シュウリの背後で音がする。


シュウリは笑みを浮かべながら、振り向く。


そこにいるのは、姿かたちを隠しても分かる愛しい人。


シュウリの目の先にはナオが、ナオの先にはシュウリが立っている。


ナオはシュウリに言葉を放つ。

「きなさい」


シュウリはナオに魔法を放つ。

空気を圧して放つ攻撃魔法である。

ナオはそれを避ける。

シュウリは部屋に散らばる壁や窓の破片を操り、ナオに飛ばす。

同時に魔法で波状攻撃を仕掛ける。

ホコリが舞う。


ナオは回避をするが、全てはよけきれなかった。

手足で受ける。


シュウリは一気に間合いを詰める。

身体強化魔法を施し、ナオの肩を掴み、抉りとる。


ナオの肩からバチバチと、回路がショートする音がする。


シュウリは、さらに、ナオの腕を掴み、壁に向かって飛ばす。

衝撃で、その下にへたり込む、ナオに近づいていく。




ーーーーーーーーー

シュウリは度重なる戦闘の影響で、心が壊れていた。

内から生じる破壊衝動を抑えきれないことがある。

完全に暴走してしまえば、街どころか、国が破壊されてしまいかねない…

『Break・Heart』改め『Break・Hurt』


この街は、彼女を抑えるために作られたカゴ…

彼女が普通に生きるために作られた世界…


世界は、敵対組織亡き後の、彼女の脅威を抑えるために、組織の残党に交渉を持ち掛けた。

応じたのは、組織の旧幹部にして、改造人間… それがナオであった。


身体のパーツを自在に付け替えることができるナオは、何度も何度も修理を重ねながら、シュウリと闘う。


時折、モブ/アンドロイドを操作して、シュウリやナオに害をなし、それをシュウリが破壊する。

そして、ナオが落ち着ける。

そうしながら、シュウリの衝動を操作する。

運よく別の組織の残党が暴れれば、それを対象とできるが、徐々にその数も減少している。

ーーーーーーーーーー


シュウリはナオの真正面で、拳を振り上げる。

真っ直ぐにナオの膝に振り下ろして、足を破壊する。


(ああ… ナオ… ナオッッ… ナオオッッ)


シュウリはナオを嬉々として破壊する。

砕き、千切り、噛み、握り、潰し、擦る。


(いいわ… シュウリ… きて 貴方の壊れた心… 私で埋めて)


それを、ナオは笑顔で受け止める。


(貴方の衝動… 全部私が受け止めてあげる… 私だけが… それをできるから)


(ナオッッ… ああっっ ナオッッ)




シュウリには3つのナイショがある。


一つ目はナオを交際していること

といっても、全て仕組まれたことなので、ナイショも何もない


二つ目は魔法少女であること

といっても、これも誰もが知るところである


三つめはナオを壊すことで、リビドーを得ていること

これだけは、機関も組織も知らないナイショ…


シュウリとナオの2人だけの秘密


「ああっっ ナオッッ 好きっっ 壊したいほどっっ」


「いいわっっ 来てっっ めちゃくちゃに… 壊してっっ」

シュウリはナオの胸部に手をねじ込み、ナオの身体のコントロールをつかさどる部位を掴んだ。


ブチブチ

グチグチ

ガガギギギギ

ググググッ グ…


ブチッ



金属片

オイルが周囲一体にまき散らされる。


シュウリは、抜き出したナオのコアを、潰した。


「はああ… はあ… はあ…… ああっっ」


ナオはシュウリに優しく話しかける。


「落ち着いた?」



シュウリは大きく息を吸い、ゆっくり吐いてを十度繰り返し、コクリと頷いた。


そして、ナオの顔についたオイルを手で拭き取る。


シュウリはナオの口にそっと口づけした。



地獄よりも暗きに輝く天国よりも眩い心は、かくも切なく合一す。

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