カセットテープが紡ぐキズナ
普段と変わらない部屋。
ただ一つだけ違うのは、咲き誇った桜のような笑顔を振りまく彼女が居ないこと。
彼女はその桜のように散ってしまった。
海外の出張中に不幸な交通事故の犠牲となり、僕へ訃報が届いたのだった。
そして葬儀での別れ。
横たえられた彼女はまるで眠っているようで、声を掛けたら返事をしてくれるような、綺麗な顔をしている。
その最後の姿を見ても僕はもう彼女に出会えない事を理解できなくて魂を抜かれて抜け殻になってい僕。
そのまま七日がすぎ、立ち直れないまま二人の新居に僕はいた。
本当はずっと二人で思い出を紡いでいくはずだった部屋。
もう、その未来はないのだと。
僕はその未来を捨てたくなかった。
その未来にまだしがみつきたった。
でも、きっとこうして彼女にしがみつき、囚われている僕を彼女は許してくれないだろう。
あの、さっぱりした性格の彼女。
曲がったことが大嫌いだった彼女。
未来だけを信じて突き進んでいった彼女。
未来へ紡ぐ道を自分で作っていく彼女。
僕を見たら彼女は「未来に進みなさい!」と、怒るだろう。
遠くの彼女に情けない姿を見せたくないから、ここに来たのに身体が重くて思い出ばかりに浸りながら半日を過ごしてしまった。
振り絞って僕は彼女の化粧台の引き出しを開けた。
そこには僕の贈った物や、彼女と一緒に選んだアクセサリーが並べられ、僕は思わず涙が溢れて手が止まってしまう。
ふと引き出しに目を向けると、奇妙な違和感におそわれた。
僕はゆっくりと小物をすべて取り出して引き出しの底に手を当てる。ほんの少し板がずれた感触。その感触を頼りに板を取り出すと、小さな隙間があった。
その中には真新しいカセットテープがあり、ラベルには「私の人生」と書かれていた。
今時カセットテープなんて。どうやって再生すればいいんだ? などと思いながら、そこにあるだろう彼女の懐かしい声を早く聞きたくて、古いものもあるだろう実家に向かった。
奇跡的にあったテープレコーダーに、彼女のものと思われるテープを入れる。
そして、僕はゆっくりと再生ボタンを押す。
この再生ボタンが僕の運命を大きく回す出来事になるとは思いもしなった。
こうして、僕は彼女が残した人々のキズナをたぐり寄せる旅が始まる。
まるで、見えないテープをたぐり寄せていくように……。