ここは不幸の交差点です
放課後、学校の昇降口前で泣きそうになっている下級生を見かけたので声をかけた。
そうしたら、一通の手紙を見せてきて「不幸の手紙を貰ってしまったの」という。
私はため息を一つついて、手を差し出した。
「じゃあ私に頂戴。その手紙を受け取ったのは私。そういうことにしよう」
そう提案すれば、でもとか悪いですとか言いつつほっとしたような顔をして手紙を私の手に乗せてきた。
お辞儀を繰り返しながら帰っていく下級生を見送ると、私は職員室へいってシュレッダーを借り、その手紙を突っ込んだ。
「くだらない」
不幸の手紙なんか、受け取っても不幸になんかならない。
一通の手紙がどんどんと増えてどこまで到達するかを見守って楽しむいたずら行為なのだから、そんな思惑に乗ってやる必要なんかないのだ。
帰宅の途中、歩行者用信号が青になり横断歩道へと一歩踏み出したその時。
甲高いブレーキ音が耳に入り、何事かと振り向いた瞬間にすさまじい衝撃を体に受けた。足が地面から浮き上がり、そしてぐるぐると空と地面が交互に目に入ったと思ったらもう一度衝撃を受け、そして意識が遠のいていった。
「こんにちわ!ここは不幸の交差点です!あなたは私から不幸を受け取って交差点で死にました!」
「は?」
気が付けば、目の前に明るい茶髪のお姉さんがいた。
ニコニコしながら話しかけてきたが、何を言っているのかさっぱりわからない。
「あなたは、この交差点で3人をコチラ側に引き込まないと、輪廻の輪に戻れません!」
「どういうこと?」
「これは、定型文だからね。よく覚えておいてね! 私はあなたで3人目。あぁ…ほら、お迎えが来たわ。やっと生まれ変われるのね」
疑問には何一つ答えずに、茶髪のお姉さんは輝きながらその姿を薄くしていき、やがて消えてしまった。
周りを見渡すと、私は先ほどの交差点の上空に浮いていた。見下ろせば、交差点には救急車がやってきていて、どう見ても私と思われる体に心臓マッサージをしたり声掛けをしたりしているのが見えた。
そして、交差点の上空には私の他にもふわふわと浮いている人たちがいる。中には、ずっと前に事故で死んだとテレビで見た顔もあった。
不幸の手紙ならくだらないと破いて捨てることができる。
でも、自分の生まれ変わりが掛かっているとしたらどうだろうか?
私は、自分を置いて空のまま出発していく救急車を見送り、ぎゅっと目を細めた。
交差点を、先ほどの下級生が渡っていくのが見えた。