嘘つきばっかり*
推奨:第二部まで読了
時間軸:第三部前
エウラリカ/カナン
「おや、エウラリカ殿下。二日連続同じ場所で遭遇するとは、これは運命に違いな――――おい何をする! 僕はあのウォルテール将軍の、妹の友人の従兄弟だぞ!」
衛兵に両腕を捕まえられ、踵で引きずられながら遠ざかってゆく令息を見送ってから、カナンは腕を組んだ。
じろりと横目で睨む。
「こないだウォルテールの親戚だっていう男に優しく耳を傾けたせいですよ。しかも結局嘘だったし」
「だって、意外と顔が似ていたから面白くて」
エウラリカが悪びれた様子もなく頬に手を当てているので、カナンは聞こえるように嘆息した。当然彼女は意にも介さない。
「それにしても、今日はやけにああいう手合いが多いですね」
「だからお前はさっきからずっと私を付け回しているの?」
「言い方」
「あら、嫌味よ」
あっさりと返されて、カナンは思わずエウラリカの顔を二度見した。苛立った様子はなく、むしろ呆れ果てた表情だ。
「私だって変な輩をあしらうくらいできるし、そもそもこうして衛兵が対応に当たっているんだから、お前がいようといまいと関係ないでしょう」
言われてしまえばその通りなので、カナンは渋い顔で黙り込んだ。
「任せなさい。私、厄介な連中なんてちゃんと自分で追い払えるわ」
胸に手を当てて宣言したエウラリカは自信満々の様子で、任せろと言わんばかりにこちらを見上げている。
珍しく暇な日で、今日はもうこれといった用事はない日だった。とはいえやることが皆無という訳でもない。
「分かりました」と不承不承頷いて、カナンはそのまま自室へと戻った。
扉が叩かれたのは、稟議書の確認を始めて半刻も経たない頃である。来客の予定はなかったはずだ。怪訝に返事をすると、エウラリカがひょこりと顔を覗かせた。
幾分ばつの悪そうな目つきをしていた。
「一人でも追い払えるけど、お前がいないと母数が増えたわ。適当な嘘をつく連中の多いことと言ったら」
あの嘘つきども、と毒づく。
言い訳がましい言葉を解読するに、どうやら自分が傍を離れてから、近づいてくる輩の数が増えたということらしい。
「本当に面倒。こんなんじゃ日常生活が困難だわ」
執務室まで避難してくるとは、ただ事ではない。図書館に行って、欲しい本を借りて戻ってくるだけのつもりだったのに、途中で経路を逸れてきたようだ。
「そういえば俺も、たまたまそちらへ用事があったような気がしてきました」
白々しく呟くと、エウラリカは椅子に浅く腰かけたまま、片眉を跳ね上げてこちらを注視する。耳をそばだてる猫の仕草を彷彿とさせた。
「⋯⋯そういうことなら、仕方ないから一緒に行ってあ
げても良いわよ」
ややあって、自らの膝に頬杖をついたまま、エウラリカがちらりと歯を見せて笑った。
(初出:2021/10/20)