紅月シオンは強いかの検証実験
真っ白い空間、そこに1人の少年がいた。逆立った銀髪に血のような赤い瞳。運動するのに不要な飾りなどのない黒い装束に身を包んだ少年は今いる場所が何なのか多少は気になっていた。
「んだ、ここは?
オレは強いヤツと戦いたくて出掛けようとしてたのに……新手の嫌がらせか?」
『嫌がらせじゃないよ。招待したんだ』
少年が独り言を呟いていると彼の前に男が1人現れる。黒いスーツに身を包みサングラスをかけ左耳にサイコロのデザインのピアスをつけた男。明らかに怪しい男の登場に少年は近づくなり殴りかかるが、少年の拳は男の体をすり抜けてしまう。
すり抜けた。実体がない、つまり……
「ホログラムか」
『ピンポーン!!ここはオレのクリエイティブでエクセレントなワールド!!
こうしてキミと話すために仮初の姿で現れたのさ』
「……ここは何だ?」
『言ったろ?オレのクリエイティブでエクセレントでファンタスティックなワールドだよ。キミの……紅月シオンの強さを確かめたくてね』
「オレの強さを?」
『キミの名は紅月シオン、《レディアント・ロード》においては戦闘種族の末裔の雷の能力者として書かれているが……実際キミって強いのかの?というか必要なの?』
「あ?」
ホログラムの男の言葉に少年……紅月シオンは眉間に皺を寄せながら相手を睨み、さらに殺気を飛ばす。シオンのその行動を前にして男は余裕なのか不敵な笑みを浮かべながらシオンを煽るように話し始める。
『一部でキミのファンとして応援するものもいるけど、そこを差し引いてもキミの活躍ってそこまで目立たないよね?美味しいところは全部主役に持ってかれる、登場人物の多い《レディアント・ロード》の人数稼ぎみたいな感じで終わってない?強いならまだしも、主役に劣って霞むような実力ならいらないじゃん?』
「……言いたいことはそれだけか?」
『うん、それだけ。さっきの彼は悉くオレの用意した全てを超えてくれたから……キミには期待も込めて派手にいくよ!!』
シオンがイラつく中で男は笑いながら指を鳴らし、男が指を鳴らすと天井と壁に無数のミサイルポッドが現れ、ミサイルポッドはシオンに狙いを定めると一斉掃射しようとした。しかし……
シオンは首を鳴らすと体に雷を纏い、雷を纏ったシオンがその場で回転しながら右手を勢いよく振るとシオンの体から無数のミサイルに向けて矢の形をした雷が無数に放たれてミサイルを破壊して爆散させていく。
全てのミサイルが爆散して終わると男は嬉しそうに手を叩きながらシオンに話しかける。
『オッケー、オッケー。面白いよ。
まずはレベル1をクリア。となれば早速レベ……』
「温いんだよ、クソ雑魚」
『……ん?』
男が嬉しそうに手を叩いているとシオンは床に唾を吐き捨て、そしてシオンは男を睨みながら退屈そうに話していく。
「生温い。この程度でレベル1?笑えねぇよ。
この程度でオレをどうにか出来るとか思ってたならクソだな。アイツの言葉を借りるならオマエはサル以下のゲロ程度の低レベルなクズ野郎だ。オレの強さを測りたいならマシなもん用意しろ。今のじゃウォーミングアップにもならねぇ」
『……あん?
黙って聞いてりゃ調子乗んなよ、ガキ。こちとらテメェより何年も長生きしてんだよ。テメェみたいなガキに偉そうに言われる筋合いなんざねぇよ』
「ならまともなのを用意しろ。アイツの方がまだオレを楽しませてくれる。用意できないならこの空間を力づくで突破して出ていくだけだ」
『そうかそうか……ならとっておきを披露しようか。
絶対に倒せない最強の生体兵器だ!!』
男が叫ぶと床に大きな穴が開き、その穴から何かが勢いよく飛出てくる。何かが飛び出ると穴が塞がり、飛び出た何かは着地するとシオンの前でその姿を晒す。
全身が白く、その白い体は血管のようなものがハッキリ浮かび上がっている。服など着ておらず体毛も髪もなければ目も鼻も耳もない口だけしかない顔を持つ人のような何か。
化け物、ただそう呼ぶに相応しいそれについて男は説明するようにシオンに語ろうとするがそんなのを聞くつもりもないシオンは化け物に接近すると回し蹴りを顔に食らわせて倒そうとする。
化け物はシオンの回し蹴りを避けようとも防ごうともせずに受けると仰け反ってしまい、シオンはそんな化け物を倒そうと身に纏う雷を拳に集めて一撃を決めようとし……たが、化け物は回し蹴りを放ったシオンの足を掴むと彼を地面に叩きつけて腹に蹴りを食らわせる。
「がっ……!!」
腹を蹴られたシオンが怯んでいると化け物は掴んだままのシオンの足を強く握るとシオンを投げ飛ばして壁に叩きつける。壁に叩きつけられたシオンが立て直そうとすると化け物はシオンに接近して何度も殴りかかり、化け物の攻撃はシオンの体に叩き込まれていく。
化け物の攻撃がシオンに叩き込まれていく中、苦戦するシオンを楽しむかのように男は話していく。
『そいつは攻撃を受ければ受けるほど成長して敵を必ず殲滅する。例えキミが強くてもそいつは成長してキミを上回る、そんな敵を相手にキミに勝つことは不可の……』
「なるほど……なら好都合だ」
男の話を聞いた途端シオンは嬉しそうな笑みを浮かべて化け物の攻撃を放つ手を握り止め、攻撃を止めたシオンは笑みを浮かべたまま化け物の顔に頭突きを食らわせる。
頭突きを受けた化け物が一瞬とはいえ怯むとシオンは化け物の首を殴って一時呼吸困難に陥れると掴み止めた化け物の手を離すと蹴り飛ばす。化け物を蹴り飛ばしたシオンは唾を吐き捨てると首を鳴らし、蹴り飛ばされて倒れる化け物を見ながら嬉しそうな顔をしながら男に告げる。
「ちょうどよかった。オレは強くなりたかった。強いヤツを倒してさらに強くなりたかった。強いヤツとひたすら戦い、強いヤツを何度も殴りたくて仕方なかった……けど、そいつがオレより強くなるのなら好都合だ。オレの強さの踏み台に最適だ……こういうヤツを潰せばオレは強くなれるからな!!」
シオンは床を強く蹴って化け物に迫ると蹴り上げ、さらに敵を殴打していくが化け物は負けじとシオンの顔面を殴ると続けて何度も何度もシオンの顔を殴る。殴られるシオン、だがシオンは嬉しそうな笑みを浮かべたまま化け物の攻撃を受けており、攻撃を受けるシオンは嬉しそうに声を出すと化け物の攻撃の一手を避けてアッパーを顎に食らわせる。
肉体構造が同じなのか化け物は顎に一撃を受けてフラつき始め、化け物がフラつくとシオンは右足を勢いよく振り上げて化け物の脳天に踵落としを決める。
脳天に攻撃を受けた化け物はシオンの前で倒れそうになるが、男が言っていた『攻撃を受けるほど強くなる』という性質が働いたのか倒れまいと踏ん張るとシオンの顔に一撃を叩き込もうと殴りかかる。だが、その一撃をシオンは左腕で防ぐと右手に力を入れて化け物を殴り返し、さらにシオンは化け物の背後に一瞬で回り込むと敵の両腕を掴んで後ろに強く引っ張りながら敵の頭を踵落としで地に叩きつける。
強く引っ張られる腕と地に叩きつけられる頭、2つの衝撃・異なるベクトルへの衝撃のせいか化け物の両肩が砕けるような音がする。化け物は苦しそうに醜く喚くように叫び、シオンは化け物の手を離すと壁に向けて蹴って叩きつけ、敵がまともに動けない中で雷を全身に強く纏うと化け物を殺そうと歩き迫る。
『バカな……!?そいつは攻撃を受けるほど強くなるんだぞ!?
なのにどうして……!?』
「覚えとけクソカス野郎。
オレは紅月シオン……戦うことが全ての戦闘種族の血を受け継ぐ最凶の戦士だ!!」
男に自身についてシオンが語ると化け物は肩の骨が砕けながらも立ち上がって叫び声を出しながらシオンに迫り、シオンに接近するとシオンを真似るかのように回し蹴りを放とうとする。
が、シオンは化け物の決死の一撃を体勢を低くして難無く躱すと右手に雷の剣を持って姿を消し、化け物の背後へとシオンが姿を見せると瞬く間に化け物は細切れにされた後雷に焼き消されてしまう。
化け物が消えた、その事実に男が驚愕しているとシオンは男に接近して雷の剣を突き刺す。
ホログラムの体の男に意味は無い……ように見えたが、雷の剣を刺された男の体はノイズのようなものが生じると消え始める。
『雷の力で……映像の出力と通信の妨害をしてここからオレを……消すつもりか……!?』
「オマエに用はない三下。
文句があるなら……次は堂々とオレの前に出てこい!!」
男を消そうとシオンが雷の剣を振り下ろすとホログラムの映像が消滅して男の姿が消える。男が消えると何も無いこの白い空間の壁に1つの扉が現れ、シオンは現れた扉の前に移動すると迷うことなく扉を開いた。
「……こんなんじゃ足りねぇな。
オレが求めるものがあるかは分からないが、進めと言うなら進んでやるよ」
扉の先に何があるかは分からない、それでもシオンは迷うことなく先へと進んでいく。シオンが先に進むと扉が閉まり、扉が閉まると誰もいなくなった空間へと謎の男が現れる。
「……強いのかの検証実験だが、前回の姫神ヒロム同様にやはり紅月シオンも生み出された作品内でしかその強さは発揮されない。明確な戦いへの姿勢と戦いへの欲望、雷の能力者という項目を持たせたこのキャラにファンがつくことは有難いがやはり他の人物に埋もれるとなると一押し足りないな。女嫌いという個性も作品の展開上発揮しにくい……となれば、彼のための活躍の場を用意する他ない」
謎の男はノートのようなものを取り出すと開け、開いたページに何かを書き記していく。
「強さを求める紅月シオンに迫る試練、それを前にして躓く紅月シオンが如何にして乗り越えるかを描いた世界……《レディアント・ロード》しか書けない作者だからこそ出来る作品キャラを活かすための場の創造。おおよその地盤は出来ているからあとはそこへ導くだけ」
楽しみだな、と男が1人で語る中ノートのようなものに書き記された言葉が見えた。
『雷雷鳴天戦武』
そこに記された言葉の意味とは……?
3月下旬より『雷雷鳴天戦武 レディアント・ロード 紅月シオン外伝』連載開始!!