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破棄系

神々の采配など

作者: アロエ



その日、城内は上へ下への大騒ぎとなった。



なんと三年前から眠り続けてきたこの国の王妃が、突然目を見開き起き上がったのだと。



当初、王妃の眠りは病によるものという説と何者かの呪いによるものというのが挙げられていた。だがどんな医師が見ても病は見つからない。どんな高名な呪術師を呼び寄せても王妃は目を覚まさなかった。誰も彼もが王妃の事を諦め、ただただ死が訪れるのを静観していた。


けれど不思議な事に、王妃はなにも口にしないというのにその命が尽きる事はなかったのだ。王妃を敬愛していた者はその事を安堵する一方、気味悪がる者も後を絶たなかった。そうして三年の月日が流れ。何の前兆もなく王妃は目覚めた。


お側付きの侍女が朝、その手や足を拭こうと温かな湯の入った器と布を持ち、ベッドのサイドに用意した椅子に腰掛けようとした時であった。



「……王は、王子は、まだ大罪を犯してはいないか?」



目覚めたばかりとは思えぬはっきりした声に侍女は驚き、椅子から転げ落ちる。ひっくり返した器から湯を被りそして彼女は主の前であるというのに叫んだ。


王妃様がお目覚めになりましたと、部屋の外に待機している兵にも聞かせる程の大きな大きな声で。普段であれば礼を失した行いであると侍女長をも巻き込んで折檻やら何やらとなっただろうが、事が事であったためにそんな些細な事は吹き飛ばされた。


侍女の声に何事かと扉を開いて同じように驚く幾人かの兵はしかしよく訓練されていた事もあり、不測の事態にもかかわらず直ぐに我に帰り、王の元へ兵を走らせた。


報せを聞いた王は任されていた政務を急遽止め、慌ただしく兵や宰相、侍女に書記官とずらずらと引き連れながら王妃の私室へと足を踏み入れた。


互いの顔を見て片や無表情、片や涙を目に浮かべだすというなんともいい難い空気が流れる。感極まったかのように普段の威厳さも何もかもかなぐり捨てたようにわなわなと両腕を開き、王妃を抱きしめようとした王に、王妃は少し困ったような顔をしてそれをやんわりと拒んだ。



「すまないが、私はそなたの愛した王妃ではない。抱擁は控えてほしい」



淡々と言う声は間違いなく王妃のもの。困ったような戸惑ったような顔だとて、美しい王妃のもの。少し痩せはしたが出るところは出、締まるところはキュッと締まった体も然り。


されど眠りに就く前までにあった王に溢れんばかりの愛が込められたヘーゼルの瞳は何の輝きも宿さない。王は混乱とショックとにその場にへなへなと力抜けたように屈みこんでしまった。



「……そ、そこまでの事か?弱ったな。そこまで傷を付ける気はなかったのだが」



参った、と嫋やかな王妃の表情で頭を掻く様は男性のようにも見えた。


ややあってコホンと咳払いを可愛らしく一つした王妃は真面目腐った顔をする。



「私はこの体を借りているとある世界の神である。そなたたちの子どもであるものが神域を犯し、それにより広まる厄災を食い止めるべく忠告に参った。私がこの体を抜けた後、直にそなたたちの王妃も目を覚まそう。だがゆめゆめ忘れるでない、神域に人の手を入れてはならん。決して王子たちの愚行を許すな」



(おごそ)かにそう口にしてベッドに再び横たわると困惑しつつも未だに泣きそうな顔をし王妃を見つめる王に困ったように頬を掻いて、彼に近い方の手でもって王の手を求め、甲より包み撫でる。



「泣くな、人の子よ。お前の愛した妃は死んだわけではない。神の依代に相応しいほどに優れたる女性だったが故に借り受けたたけだ。もう直ぐにお前のもとに戻る。だから安心して待っていてほしい」



ぶっきらぼうながらも父性と母性を感じさせる不思議な声音でそう伝えて微笑み目を閉じると王妃は深く息を吐き出しまた眠りに就いた。


神のいう直ぐにという言葉が本当なのかわからない彼らは数年かかるかもしれないと覚悟するも、王妃はその日より三日後に目を覚まし恐る恐ると声をかけた王を温かく迎え入れ二人は抱き合って涙した。


災厄の引き金になるかもしれない王子たちにはそれぞれに厳しい素行調査や身辺警備がなされ、そこで第二王子に近付こうとする悪しき動きがあったことが確認されそのものらには相応の処罰が下った。


それと同時に何故怪しげな輩をと問われた彼が、長子たる兄の出来の良さと常に比較されて気に病んで卑屈になっていたという答えを出したことで大人たちは顔を見合わせ第二王子の心のケアも重要だと家族としての絆も少しだけ修復された。





「きゃあ、ぶー!」



王妃が目覚め、神が降臨されてから一年後。王と王妃はまた新たな命を授かった。よく笑い、両親を見ては嬉しそうに手を伸ばし。周りをパッと明るくするその子は皆にとても好かれた。


一時は誤った道に歩みかけた王子らも末の子が可愛いらしくちょくちょくと様子を見に来ては愛らしい、愛らしいと兄馬鹿を発揮している。


ただ王妃だけは他とは少し違った感情も抱いていた。



「またお会いしましたね。あの子たちや王がそんなに心配でしたか?」



優しく抱き顔を覗き込みながら微笑めば赤ん坊はうーと答えるように返事をし、王妃も更に目を細めそうですかと返した。


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