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僕には少し甘すぎる  作者: Bくん
第一部
8/11

8話『神よ』


「お待たせしましたー」


リビングに入ると、盛り上がった布団がもぞもぞと動いた。

顔だけ出した佐藤さんがこっちを見ている。

何とも弱々しい姿だ。

でかい図体のくせに、放っておけないというか、庇護欲を煽るというか。

僕に他人を甘やかす性質は無いと思ってたんだけど。


「佐藤さん、起きられます?」


「……ん。早い、な」


「まぁ、簡単なものなんでね」


卵粥とお茶をテーブルへ並べると、途端に殺風景だった部屋に生活感が生まれた。

やっぱり食事って偉大だ。

その匂いに釣られるようにして、佐藤さんが這い出てくる。

何だかいちいち犬猫っぽい。


そして、ソファーに座った彼は一言。


「……ジーザス」


なぜ。

なぜ神を呼んだ。

天使の次は、神なのか。


「ちょっ、ただの卵粥ですよ?」


「いや。神々しい」


「こっ、神々しいって……」


大袈裟な人だ。


「いただきます」


きっちりと手を合わせてから、佐藤さんがスプーンを手に取る。


クッキーを食べてた時にも思ったが、彼の食事に対する姿勢は妙に礼儀正しい。

良いとこのお坊ちゃんって雰囲気は皆無だけど、わりとしつけの厳しい家庭に生まれたのだろうか。

何だか想像がつかない。


「……森園くん」


お粥を一口頬張った佐藤さんが、斜め後ろに立つ僕を振り返った。

心なしか目が輝いているような。


「どうですか?」


「めちゃくちゃ美味い」



相変わらず言葉と表情が一致しない。

静かに、でも夢中で、一心不乱に食べている。

やばいな。

にやけそうだ。

人に何か作って、感想を言ってもらえる。

この瞬間が本当に好きだ。


クラスメイトに弁当やお菓子をおすそ分けすることも有るし、人に料理を誉められるのは初めてでは無いのだけど。

佐藤さんの、シンプルで分かりやすい反応は特に好きかもしれない。


「良かった。あっ、そう言えば佐藤さん。洗濯物、部屋干ししても良いですか? 勝手に洗っちゃったんですけど、スミマセン」



スプーンを置いた佐藤さんがスッと立ち上がった。

そのまま、僕の方へ近づいてくる。


「君は、本当に……」


さ、流石に勝手が過ぎただろうか?

怒ってるのか。呆れているのか。

佐藤さんの手が伸びてくる。

殴られる、なんてことは無いだろうけど。


「ごっ、ごめんなさい! 余計なことを……」


「森園くん!」


「……っ」



ガシッと、効果音が付きそうな勢いで手を掴まれた。

佐藤さんの大きな手のひらと長い指が、僕の両手を包み込んでいる。

力が強い。


「先生になってくれないか」


「…………はい?」



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