7話『家事とは』
「さて……」
改めてキッチンを検分してみる。
鍋はある。片手鍋のみ。
これはあらかじめ佐藤さんに確認済みだ。
フライパン、は無い。
二号炊きの炊飯器と電子レンジはある。
おたまはあるが、ザルやボウル、菜箸は無い。
あ、フライ返しも無い。
フライパンが無いんだからそりゃそうか。
しかしこれは……。
「……き、規準が分からん」
普段から料理をするタイプでは無いことは一目で分かるけれど、一体どういう規準で調理器具を揃えているのか。
料理をするタイプの僕にはいまいちよく分からない。
「なぜ包丁が無いんだ」
必須じゃないのかな?
まぁ、無いってことは必須じゃないのだろう。
幸い、今日の料理は鍋一つ有れば作れる卵粥だ。
玄関に置きっぱなしにしていた買い物袋を運び込み、シンク横の狭いスペースに材料を並べた。
パックご飯。卵。鶏ガラスープ。
……以上。
お茶とスポーツドリンクは冷蔵庫にしまう。
それにしても木村商店の品揃えは素晴らしい。
近所だし、お婆ちゃんは親切だし、僕も積極的に利用しようかな。
なんて、余分なこと考えてる暇はなかった。
早く作ってあげないと、佐藤さんマジで死んじゃうかも。
……てか、生きてるよね?
物音ひとつしないんだけど。
若干不安になりながらも、調理を開始する。
まず、パックご飯をレンジで温める。
それから目分量で鍋に水を入れ、ご飯を投入。
煮込む間に洗濯もやってしまおう。
やるなら徹底的にやる。それが僕の信条だ。
脱衣場に入ると、ふと鏡が目に入った。
茶色がかった髪にドングリ眼。
残念ながら平々凡々な男子高校生だ。
佐藤さんはああ言ったが、見た目も中身も決して"天使"などではない。
僕が協力的になるのにはちゃんと理由があるのだから。
こんな事を声に出して言ってしまえば世の奥様方から顰蹙を買いそうだが、僕にとって、料理や家事に費やす時間は辛く面倒なだけのものではなかった。
やりがいがあるし、何より没頭できる。
僕がまだ責任の無い自由な子供だからかもしれない。
それでも、今の僕にとっては大事な、楽しい時間だ。
「おっ……」
洗濯機を回してキッチンへ戻ると、良い具合にご飯が煮えている。
あとは鶏ガラスープの素を溶かして、溶き卵を入れる。
それから味を整えて……。
「完成っと」