6話『touch』
「佐藤さんって、アレルギーありますか?」
奇跡的に無事だったタオルを手に、大型犬よろしく、わしゃわしゃと拭きながら問いかける。
それにしても本当におとなしい犬……、人だ。
「……無い。好き嫌いも。何でも食えるよ」
「食欲は?」
「腹減った」
「ふっ、すぐ作りますよ」
不思議と笑みがこぼれる。
何だろう。
今日逢ったばかりとは思えないこの感覚は。
佐藤さんの人柄のせいだろうか。
とても自然で、フラットで。
ただ純粋に助けてあげたいと思ってしまう。
イケメンなくせに、嫌味な部分が無いのだ。
「立てます?」
「……ああ」
肩を貸そうとしたが、佐藤さんは自力で立ち上がった。
僕の身長は174。
決して低い方ではない。
それでも、並んで立つとだいぶ差がある。
185,6はあるかもな。
そんなことを思いながら彼の後ろに着いていく。
「……?」
ドアを開けた先のリビングは、予想に反して片付いていた。
いや、片付いていると言うより、物が無いのか。
薄いグレーのカーテン。
剥き出しのフローリング。
ソファーとテーブル、床に敷かれたマットレス以外は、何も無い。
殺風景でどこか寂しい部屋だ。
「……森園くん?」
「あ、いえ……」
何だか見てはいけないものを見たような気がした。
散々なれなれしくしておいて今さらだが、他人のプライベートに触れる瞬間というのは、いつも少し怖い。
「……キッチン借りますね」
「ちょっと待って」
「え?」
背を向けた僕の腕を、佐藤さんが引っ張る。
振り向くと、ふわりと柔らかい感触。
「森園くんも濡れてる」
優しく撫でるように拭かれて、何やらくすぐったい。
さっきとは立場が逆だ。
ただ、僕はあまりおとなしい犬ではない。
「だっ、大丈夫ですよ! 病人なんだから、人のこと心配してる場合じゃないでしょ」
微妙に不服そうな顔をした佐藤さんを半ば無理やり布団に押し込み、僕はリビングを出た。
本当に調子が狂う。
仲の良い友人でさえこんな距離感にはならない。
……と言うか、なに不服そうな顔してんだ。
僕はわりと正論を言ったと思う。