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僕には少し甘すぎる  作者: Bくん
第一部
3/11

3話『He is dying!』


「それ、もっと食っていい?」


「えっと……」


クッキーをあげるのは一向に構わないが、顔が近い。

それにしてもイケメン。じゃなくて。

近い近い。

イケメンでも許されない距離だ。


「……君、いい匂いするな」



男の手から傘が落ちる。

右肩を掴まれて引き寄せられ、互いの身体が密着する。


「ちょっ、ちょっと!」


すぐに押し退けようとしたが、両手は塞がっているし、思いのほか彼の力は強い。

僕に出来る抵抗なんてモゾモゾと身をよじることくらいで、端から見たら抱き合っているようにしか見えないだろう。


平日の昼前で幸い人通りは少ないが、店の軒先でこの状況はいかがなものか。


「あ、ああああのっ……そのっ……」



舌がもつれて、変な汗も出てきた。

誰か助けて。

そう言いたいけれど、混乱し過ぎて助けを求めるべきかどうかも分からない。


これはあれか?

新手の痴漢というやつか?

にしては、堂々としすぎてない?

それに僕相手に痴漢って、誰が得するの?


でも、痴漢じゃないなら、何?


「……美味そう」


「ひっ!?」



掠れた声と熱い吐息が耳を擽って、上擦った悲鳴が漏れる。

なっ、何かヤバい。さすがにヤバい。

美味そうって、クッキーのことだよね?

じゃなかったら本気でヤバい。

助けを呼ぼう。


「あ、あのっ! だれ……か……って、あれ?」



肩口に感じる、ずしりとした重みと熱い吐息。

と言うか、熱いのは吐息だけじゃない。

今の季節が夏であることを差し引いても。

僕の心臓が過剰に脈打っていることを差し引いても。

異常に熱い。


……彼の頭が。


「だっ、だだだ、大丈夫ですかっ!?」


「……う、ん」



崩れ落ちそうになっている男の身体を全身で支えながら、僕は必死で助けを呼んだ。


「だっ、誰かぁーっ!」



この人、死にかけてます。


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