2話『色男』
「いただきます」
律儀に一声呟くと、彼はクッキーを頬張った。
プレーンとチョコチップ入りの二種類。
一袋に三枚ずつの計六枚。
それを彼は、ひたすら食べている。
初対面の人間から食べ物をもらうなんて結構ハードル高いよな、とか。
これってどういう状況なんだろう、とか。
思うところは有りすぎるほど有るわけだけど。
「……いっ、イケメン」
なんてこった。
マスクの下からえらいイケメンが現れた。
その衝撃に思考が持っていかれる。
切れ長の目と通った鼻筋。
バランスの取れた薄めの唇。
目元の泣きぼくろと、気だるそうな雰囲気が妙に色っぽい。
僕は男で。
彼も男で。
神様はなんて不公平なのだろう。
何がどうなってこんなに違う造形になるんだ。
「ごちそうさま。めっちゃくちゃ美味かった」
赤い舌がちろりと覗いて、クッキーの欠片を舐めとっていく。
本心だろう。
シンプルだが、手間をかけて作った。
「……お粗末様です」
知らない人だろうが何だろうが、自分が作ったものを誰かに食べてもらうのは好きだ。
素直に嬉しい。
喜んでくれたなら尚更。
ただ、言葉の割りに彼のテンションが低いのが気になった。
そもそも、何故いきなりクッキーを欲しがったのかという最初の疑問がよみがえってくる。
黒いTシャツにジーンズ。
足元はサンダル。
すらりとしたモデル体型のお陰で似合っているが、よく見ればかなり適当な格好をしている。
ちょっと長めの黒髪も無造作ヘアと言えば聞こえは良いが、ただの寝癖にも見えなくはない。
「……なぁ」
「はっ、はい?」
少しばかり失礼な考察をしていたのが顔に出ていたのだろうか。
そう思って慌てて返事をした。
すると、男がまた顔を寄せてきた。