第1話 異世界への旅立ち
「お主、ほんとに死んでおるのか?」
今にも死にそうな顔をしている白ひげジジィが聞いてきた。
「お前の方が死にそうだな!ってかなんで俺は柱に縛られてるんだよ!」
「ふぉっふぉっふぉっ、まぁ良いではないか。ただの老人の娯楽よ」
ジジィはそう言って目の前にある椅子に座り本を見始めた。
「名前は北上奏か。おかしいのぉ、この本にはお主の死因も書かれておらぬしどこから来たのかさえ書かれておらぬ」
そう言うとジジィは椅子から立ち上がって目の前に立ち俺の顔を近くで見始めた。
「いや、顔近いから!しかも臭いし!」
「それは触らんでくれ。それにしても、どうしてお主はここにこられたんじゃ?」
「そ、それは·····」
それはあの日の夜、俺が立ち入り禁止エリアにある神社にお参りしたことから始まった。
それはただ単に出来心だった。
近くにある神社には昔から言い伝えがあり、そこにお参りしたら最後、この世界には戻ってこないという言い伝えがあったのだ。そして俺は今日その神社へと足を踏み入れ、今現在このような状況となっている。
ジジィは再び椅子に座り、俺に言った。
「そう言えば言い忘れておったが、お主はこれから異世界へ転生することになる」
「異世界へ転生ねー。うんうん、って今なんて言った!?」
「だから転生じゃよ。て・ん・せ・い」
「お・も・て・な・しみたいな言い方されても困るんですけど!?」
「ふぉっふぉっふぉっ」
長時間柱に縛られることがどれだけ辛いのかを知ってか知らずかジジィは俺に指をさして長い話を続けた。
「そこでのお主の役目はズバリ!エンペラーの討伐じゃ!」
「エンペラーの討伐?」
「そうじゃ。まぁせいぜい頑張るのじゃぞ。ちゃんといい所に降り立たせてやるからのぉ」
「え!?ちょっと!嘘だろー!」
その瞬間床が青く輝き、俺は気を失った。
ここはどこなのだろう。あぁこの感覚は外だ。今まで家に引きこもってはゲームをしてを繰り返してたばかりだったから外に出たということはすぐに分かる。
「·····か。·····ですか。大丈夫ですか!?」
「んっ!眩しっ!」
こんなの何年ぶりだろうか。日の光を浴びて芝生に横たわり目の前に美女が1人。
「ん?美女がひとりっ!?」
「「いたっ!」」
突然の出来事に驚き急いで立ち上がったもんだから心配そうに顔を覗き込んでいた美女と頭がぶつかってしまった。
「す、すみません!突然だったのでびっくりしてしまって」
「えぇ、大丈夫よ。こちらも少しビックリさせてしまったようね。ごめんなさい」
「こっちは大丈夫です!」
「かなり長く気を失っていたから心配だったけど、元気そうね!」
この人の笑顔につい引き込まれそうになる
そんなことを思っていることに気づかず美女は俺の服へと視線を移した
「――それはそうと、あなた、随分と服が汚れているわよ。」
その時までは気にしてはいなかったが、自分の服装は袖口が適当に切れた白の半袖と茶色の半ズボン。そして茶色の半ズボンでも目立つくらい全身に泥がついていた。どうやら転生してきた際に結構なスピードで落ちてきたらしい。
「なんだよあいつ、いい所に降り立たせるとか言ってたくせに!」
「あいつって誰ですか?」
「あぁ、いや、なんでもないーーそれより、どうしようかなこの服。住む家もないし、金もないし最悪じゃないかよ」
「もしよかったら私の家に来ますか?これから空模様が怪しくなる予報だからこのままいても危ないし」
その言葉を聞いて座り方を正座に正した。
「いいんですか!?」
「えぇ、いいわよ!」
俺には住む家もないし金もないが、美女を引き当てるという幸運だけは持って転生してきたようだ。まぁこうして俺の異世界生活は幕を開けた。