幽霊の女王(超短編小説)
「―――ねぇ....。 幽霊って、いると思う?」
帰宅途中、そう聞いてきたのは、綺苑凛が通う中学校の唯一の美少女、釜月黎であった。
遠くから引っ越してきて全く知らない中学になった凛は、クラスで正直言えば孤立している存在だった。
そんな時に声をかけてきてくれたのが彼女、釜月黎であった。
明るすぎず暗すぎず、ミステリアスで勉強も運動も出来て、それであって宗教さや怖さは一切ない、凛からしたら完璧すぎる程の人間であった。
そんな彼女が幽霊のことを聞いてくるなんで、どうしたのだろう―――そう思い、凛はその質問に答える。
「・・い、いないと思うよ。」
「...っ、そう。じゃあね―――また明日。」
黎は唇を噛み、自転車で去って行ってしまった。それに対して凛は、怒ってしまったのかと心配した。
勿論、余計なお世話かもしれないが、何か宗教的なものにはまってしまったのだろうか、とも心配した。
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翌日。
凛は少し怖がりながらも、黎に話しかけた。
「れ、黎ちゃん・・・お、おはよう。」
おそるおそる話しかける凛に、黎は少し黙り、口を開いた。
「・・・おはよう。凛ちゃん」
その笑顔は、完全にいつもの黎のものだった。愛想笑いだとは思えない、綺麗な綺麗な笑顔―――。
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――そして、その日の帰り道。
それがすべての――――は じ ま り。
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今度は、黎から話しかけてきた。
「...凛ちゃん。」
その声は、冷静であるような、冷たい声のような、震えているような―――そんな声だった。
「・・・なに?」
凛も、震える声でそう応えた。
「実は前世で私、幽霊の女王だったらしいの―――。」
―――凛にとって、かなり予想外な言葉が返ってきた。幽霊の女王、という言葉が脳内でリフレインする。
「それ、って、どう・・・いう」
混乱しながら放った言葉は、誰が聞いてもするであろう質問であった。
ああそうですか、どうすればいいんでしょうねと受け流すことなど、勿論出来るはずがない。
そして黎は口を開く。
「一か月前の話なんだけどね、寝てたら幽霊のユウに起こされたの。...「貴方は前世で幽霊の女王でした、
この世界でもどうかしてくれないでしょうか」―――って。
それでいろいろと話して―――結果は、yes。」
「・・・そう、だったんだ・・・」
なんて言葉を返せばいいのか分からない凛は、驚きの表情をしながら、なんとか冷静でいようとする。
勿論、完全に信じているわけではない。何かのドッキリだと、凛は信じていた。
「・・・それでね、凛ちゃん。最後にこう言われたの」
「・・・?」
―――そして、黎は震えた声で言う。
「―――幽霊を信じない者は、殺さなければなりませんよって」
そう云われた瞬間、凛は黎の言っていることがすべて本当なのだと―――確信した。
そして、体が震え上がり、冷や汗が額を流れていく。
「っ、れい―――」
「私がそうしなかったら―――貴方も殺しますよ、って」
また殺という文字が黎から飛び出し、凛は震える。
「そ、んな―――!!」
「―――ごめんね、凛ちゃん」
「やめてっ、黎ちゃん!!! 幽霊っ、信じるから!!!! というかいるの、分かったから―――!!」
凛は涙を流し、怯えながらそう言った。
「一度言ったことは取り消しできないって―――
ごめんね、凛ちゃん」
彼女はもう一度謝り、そして黎は銃を取り出し、それを凛に向ける。
「いや―――いや、いやだよ!!! ねぇお願い、黎ちゃん、正気に戻って―――!!!??
お願いだから―――!!!!」
―――黎の銃は、バシュッという音が響き、凛を狙い撃った。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
そんな風に悲鳴を上げると、凛は完全に倒れた。
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数日後―――。
「・・・女王様、次はこの方を。」
「ええ。・・・ふふふふふふふ・・・・見てる? 私が初めて殺った記念すべき一人目―――凛。
もうあなたのおかげで―――200人目よ。すごいでしょう・・・?」
―――黎の性格は、殺し屋になったことにより、凶変してしまっていた。
「うっふふふふふふふふ、あははははははは―――」
その嘲笑いを遮るように、バシュッと音が鳴り、黎はパタリと倒れる。
「―――黎、そろそろ飽きてきたな。」
その後、その場に響いたのは、幽霊のユウ――――そいつの言葉だった。
「黎って名前だったから、飽きないと思ったが、案外普通の奴だったなー。あー、つまんねっ。
よし、今度は黎が初めて殺った凛って奴の来世に行くか―。
えーと、来世は20XX年か、さ、いこーっと」
―――ユウは、時間を自由に行き来でき、沢山の少女に「貴方は前世で幽霊の女王」と嘘をつき、楽しんでいるのだ。飽きてくるとすぐ殺してしまう―――。
そして、凛の来世でもまた―――
「 貴 方 は 前 世 で 幽 霊 の 女 王 で し た 。
こ の 世 界 で も ど う か し て く れ な い で し ょ う か 。 」
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「全部、俺の想い通り・・・。あはははははははははははははははは」
「やめなさい、ユウ」
「―――っ!? 女王様―――!!?」
―――現れたのは、本物の女王だった。
「私は幽霊は悪いことをするだけではなく、人間を励ましているということを伝えたかったのです・・・
信じない者を少女たちに削除させ、その少女たちも殺すなど―――
ユウ―――あなたには、消えてもらいます」
「じょ、女王様、違うんです、まってくだ――――」
―――そんなことを言っても、もう後の祭り―――
ユウという存在は、この世から完全に消滅した。
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この事件に関する加害者と被害者が全員消えてしまった9月29日―――。
大量殺人が気付かれるのは、ちょうどこの日であった。
終
またまた昔書いたものを少し直したものです。
連載小説、少し更新停止させていただきまする。