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ただ単に女の子を救う物語  作者: 月宮結
1/1

朝の戦い

 俺の家では今日も壮絶な戦いが始まろうとしていた。

「我が妹よ、お前が持っているそのカレーパンをこちらに渡せ」

 今、俺の目の前には潤んだ目でこちらを見つめてくる少女が立っている。平均値よりはるかに可愛い見た目の妹、加奈枝だ。普通の男子高校生なら10秒で落ちてしまう(と俺は思う)顔をしてかなは静かに、でもはっきりと自分の意志を証明する。

「お兄ちゃんこそ、さっきから握りしめている加奈枝のパンツを返すのです」

 …別に俺は好き好んで実の妹のパンツを握りしめているわけではない。これは交渉に使うだけだ。…そう俺はけっして変態ではない。変態ではないのだ。

「…かな、そんなにお兄ちゃんに向かって変態変態いうと後で後悔するはめになるぞ」

「…加奈枝は一回も変態とは言ってないのです」

「…そんなことより―」

「そのカレーパンをよこせ!」

 そう大事なことなのだ。二度言おう、大事なことなのだ。なぜなら―

「今日、体育があるんだ。しかも4限目に」

 4限目に体育がある日に朝メシ抜きは俺にとって…いや全国の高校生にとって死活問題じゃないだろうか。もたない、絶対に倒れる…

「うぅー4限目体育、4限目体育、でも…」

 かなは思ったよりも深刻な俺の時間割を聞いて考え込んでいるようだ。いける!あと少しで押しきれる!

「もしどうしてもイヤだと言うのなら…」

「…ならなんなのです?」

 必殺―

「奏太に、かなのはいてるパンツを言う!」

 ―リア充殺し!

「そっそれは…」

「奏太どう思うだろうなぁ~中2の彼女がはいてるのがこんなお子さまパンツだって知って」

 そう言って俺はずっと握りしめていたパンツを掲げる。そこに大きくプリントされているのは可愛いくまさん。誰がどう見ても小学校低学年向けのパンツだ。かなは相当ダメージを受けているのだろう。羞恥で顔を真っ赤にしてプルプル震えている。そしてなぜか時計をチラ見して「はぁー」とため息をつき、

「間に合わなかったのです…奏太さんに言って欲しくないのです。だっだから、かっ加奈枝は…このカレーパンを…」

 ふっ勝った、今日は俺の勝ちだ!俺が勝利を確信したそのとき―

「シスコン撲滅キーック!!」

「ぐふぉおっ!」

 ―突然、何者かに頭を後ろから蹴られた。

 ビリッ

「痛ッてぇえー!」

 くそ痛い、頭がヒリヒリする!血は…出てない。

「なっ何しやがる!?」

「もう!悠くんが悪いんでしょ!かなちゃんのパンツを勝手に奪って!」

 なんとかぼやける視界の中で声のした方を見るとそこには俺と同じ高校の制服を着た幼なじみの姿があった。

 




「もー何してるの?悠くん?」

 俺は今、幼なじみこと神崎夢葉にお説教を受けていた。元々のーてんきで怒っても正直、まったく怖くないのだがこいつは諸事情により小さいころから空手と柔道をずっと習い続けている。どちらも全国に行って表彰されるレベルなので(とくに柔道は全国3位なので)下手に反論できない。それについさっき、今までの経路を全部説明したのだが(もちろん俺が有利になるように俺目線で語ったのだが)「このパンツ泥棒!」ともう一発頭をはたかれたのでもう何も言っていない。

 だが…夢葉に従うのだけは絶対にイヤだ!こいつはテストの点数とかでは計れないタイプのバカなのだ。俺の意地を…男の意地を見せてやる!

「でっでも夢葉~今日4限目に体育あるじゃん、だからほら…いいだろ?」

  同情作戦だ。バカなお前ならいちころだぜ!

「たしかに体育あるけど…4限目じゃないよね?」

「なっなんでそれを知って…」

 ウソだろ?

「ふっふーん!体育で宿題が出てたから予定も必然的に確認済みなのだよ!」

 くっ…

「お兄ちゃん嘘ついてたのですね…」

 うっ…かな、そんな目で俺を見るな…

「しょうがなかったんだよ、お腹空いてたし…」

「はぁーまあいいのです…そのかわりカレーパンは加奈枝のなのです」

 詰みか…

「あぁ…分かったよ…」

「やったぁ~!ありがとうお兄ちゃん!」

 朝メシ抜きか…まあでもかなが嬉しそうだしいっか。…あれ?もしかして俺、ホントにシスコン?

「おーい!悠く~ん目がいっちゃってるよー」

 あはは…ツラいなぁ…メシ~

 俺がそんなことを考えている間にかなはカレーパンを完食したようだ。なぜか浮かない顔をしている。…おい

「ねーねーゆめねえ」

「どしたの?かなちゃん?もしかしてお礼?」

「あのね…ゆめねえ」

「お礼なんていいよ~私とかなちゃんの仲じゃない!」

「ゆめねえ―加奈枝のパンツが破れたのです…」

 …へっ?

「お気持ちだけで充ぶ…えっ?」

 今なんて?

「今なんて?」

「ゆめねえのキックをお兄ちゃんがくらって転けたとき、机の角にパンツがひっかかったみたいなのです…」

 そういえば「ビリッ」って言ってたなぁ~なるほどなるほど

「机にひっかかっただけで?ちょっとなんで悠くんは納得してるの!?」

 いや、ふつうに分かれよ…

「えーと要するに机のギザギザで裂けたってことだろ?」

 かなの方を見るとコクコクと頷いている。あってたらしい。

「なんでこんな簡単なことも分かんないんだよ、一般常識だろ」

「何をしたらこんなに机がギザギザになるの!?というか…ふつうに日常生活を送ってて机の角でパンツを裂くか!」

「はいはーい、どうせ俺んちは貧乏一家ですよ~」

 そう、俺の家は貧乏なのだ。

「机くらい買いなよ!」

「アホか!机買う余裕があったら何も朝メシがカレーパン一個じゃねーよ!」

「せっ正論過ぎて言葉も出ないっ…」

「お前バカにしてるだろ!」

「してないよ~」

「金だせ!金!弁償しろ!」

「なんで私がっ!?」

「素で驚くな!と・に・か・く」

「金だせ!」

「お兄ちゃんの言う通りなのです!」

「かなちゃんまで!?助けてあげたのに…」

 かなはお金がからむとちょっと強気になるんだよな~

「感謝はしてるのです…でも、お気に入りだったのですよ!あのパンツ!返すのです!(それにお兄ちゃんにパンツ触られてもイヤじゃないし…)パンだってはんぶんこにするつもりだったのですよ!」

 そうだったのか、我が妹ながらいいやつだなぁ~それにしても…

 なんだ今の長い間は?

「このブラコンめ!」

 おいおい

「何か言ったのです?」

 今のでブラコンはないだろ。

「何も言っていないよ~…そんなことより―」

「「そんなことじゃない!!」」

 そんなことで済ますな!

「金だせ!」

「ブラコンじゃないのです!」

「「えっ…」」

「…なにこのカオス―じゃなくて!悠くん時間!」

「ん?時間…?時間がどうした…」

 余談ではあるが、俺の家の時計は母さんの仕事の都合もあって、勝手にずれた時間をなおしてくれる優れものだ。だからいつも時間に狂いはない。

「…ウソだろ、もう8時じゃん…」

「だから言ったのに~」

「あーもう!とにかく話は夜まで持ち越しな。夢葉、かな走るぞ!」

「はーい!」

「了解なのです!」

 そう言うと俺たちは遅刻を免れるためダッシュで学校に向かうのだった。




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