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好奇心は龍をも殺す  作者: 藤夙 蒼
第一章 国に追われて・・・
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第4話

 スラムを歩いていると何やら周りの人たちに注目されていた。

 よくよく考えてみれば看守の制服を着替えていなかったことに気づき、人目のつかない路地裏に入り幻惑魔法でスラムの住人に扮する。指名手配に掛けられている可能性もあるので顔や背格好も一応変えておいた。

 「幻惑魔法で姿を変えるのはいいんだけど、なんで俺、子供の姿になってるんだよ」

 何やらウィルが文句を言っているが気にせず僕はお目当ての人物がいるであろうお店を目指す。

 「ウィル、すっごくかわいいよ」

 少年の姿になったウィルを抱き上げる地味な見た目の女性、もといグリフィンはさっきから胸に抱いたウィルに頬ずりしている。

 ウィルもまんざらでもない様子だったので僕は二人を放っておくことにした。

 

 「で?お目当ての店ってここ?」

 依然、グリフィンに抱き上げられているウィルがいつもより高い声音でそういった。

 「そうだが、何か文句あるか?」

 僕はそう言って店の扉を開け、中へと入る。店に入ると同時に幻惑魔法が解け、一瞬光が体から剥がれるようにしてすぐに霧散してしまう。

 「おっ、なんだね。ヒースじゃないか」

 今日はかなり込み合っていたが、忙しそうに接客している他のエルフたちと違ってクレアはのんきに声をかけてきた。

 オーナーだからそれもありなんだろうけど、それにしても何かしらしていてもいい気がする。

 「クレア、僕の話は聞いてるか?」

 いつも定位置から動かないクレアに近づき僕は小声で問いかける。

 店に入ってきた瞬間多くの人がこちらに視線を向けてきたが、今は気にした様子もなく食事をしている。だが、僕が捕まっていたことは王都の住人だったら大方の人たちが知っているはずだ。

 なぜなら、貴族のそれも公爵家の一人息子が捕まったのだ。話のネタにされるのは必然だった。

 「あぁ、知ってる。でも、ここいらの住人は脱獄犯がいてもお上にチクるようなものはいないよ」

 何でもないようにそういうクレアだったが、安心はしていられない。

 「僕が脱獄したことってもうばれてるの?」

 「そりゃあ、拡声の魔法で王都中の人たちが聞いたからね。術者はかなり動揺してたらしいじゃないか」

 愉快そうに笑うクレア、そういえばクレアの笑った顔ってあんまり見ないなと思いつつ僕はカウンター席に座る。

 元の姿に戻ったウィルが僕の隣に座り、グリフィンはウィルの隣に座った。

 「それで?何か私に用があって来たんじゃないのか?」

 お冷を三人分出しながら含んだ笑みを浮かべるクレアに僕はどう切り出そうか迷っていた。

 「まぁ、要するに元女王様に国外まで逃がしてほしいってお願いをしに来たんだろ?」

 グリフィンが精霊の涙とドワーフクッキーを注文しながら言った。ウィルもグリフィンと同じものを注文しいたが僕は何かを食べる気分になれず、注文を聞きに来たエルフに注文しない旨を伝える。

 「なんだい、いっつもはチョコミルクとスノーホワイトを注文する癖に今日はなんも注文してくれないのかい?」

 残念そうにも聞こえるクレアの声音に僕は折れて注文することにした。

 

 注文の品が配膳され、ウィルとグリフィンはさっそくクッキーを頬張っている。

 おいしそうに食べる姿はさすが兄弟で顔はもとより表情まで似ている。

 そんな二人を微笑ましそうに眺めるクレア、自分の子供たちの事でも思っているのかなと思っていると不意に目が合う。

 「ヒース、私への用ってのがさっきそこの優男が言った事なのかい?そうだったらお安い御用なんだけどねぇ」

 僕が言いたいことはもうわかっているはずなのに意地が悪いなと思いながら、ここに来た目的をクレアに告げる。

 「もう読心の術で分かっているかもしれないけど、僕とウィルと一緒に国外に逃げてくれないか?」

 そう、僕の目的はクレアに国外までのゲートを開いてもらい、竜王国に追われない安全な場所まで案内してほしかった。

 僕とウィルだけでは戦闘力も心もとなく、常識も欠如しているので博識で何百年も生きてきたクレアに道案内をしてほしかったのだ。

 「そうさね、私は全然かまわないんだけどもね」

 歯切れの悪い返事をするクレア、やっぱり無理だよなと思い始めていると、

 「元エルフの女王様は、王都を出たくても束縛の首輪によってこの地を出ることが出来ないんだよ」

 食べ終わったグリフィンが口元をふきながら教えてくれる。

 なんか、今日のグリフィンはかなり優しい。

 「そうなの?だから自国を攻め滅ぼした敵国の王都で店を開いていたんだね」

 能天気なウィルは軽い調子で言うが、少し配慮してやれとも思う。だが、読心の術を使っているクレアには意味がないかと思い直し、僕はチョコミルクを一口飲んで心を落ち着かせようと試みる。

 「まぁ、そうなんだけどもね。この束縛の首輪は普段は見えないんだけれど、王都から離れていくと少しづつ出現してきて最終的には首を切り落とされてしまうんだよ」

 クレアはため息を吐きつつ首元をなでる。

 どうやら王都を出ようとしたことがあるような言動だった。

 「一応、その首輪の外し方、知ってるけど?」

 爆弾発言をするグリフィンに目を見開いて驚くクレア、かなり面白かったので失笑しかけたがどうにかこらえることに成功する。

 「本当にそんなことが出来るのか?」

 グリフィンの首根っこを掴み、クレアは詰め寄る。

 目がやばいと思いつつ事の成り行きを見守っていると、ウィルに袖を引っ張られる。

 「なぁ、グリフィン兄って本当に何者なんだろうな。不可能なことがないように思えるのは俺だけか?」

 お前の兄だろっ、と突っ込みたかったが内心ではウィルと同意見だった。

 普段はあんなに頼りないが、一度本気になるとどんなことも完璧にやってのける。マジで化け物だなと思っていると、クレアたちに動きがあった。

 「じゃあ、解呪の術式を展開するから場所を移そうか」

 グリフィンの提案にすぐさま飛びついたクレアは、僕たちを店の奥に案内した。

 

 初めて店の奥に入るが、店の内装と大差ないので物珍しいものは特になかった。そのかわり、みせの外観から想像もつかないほどに広かった。

 壁にルーン文字が等間隔に続いているのを見ると、何か魔術的処置が施されて空間を広げているのだろうと予想はつく。だが、空間魔法は術式自体がかなり複雑でそれを長期間持続させるという事になると膨大な魔力を必要とするはずだ。

 さすがはエルフという事なのかな?

 いつもの癖でどうでもいいことを考えていると、

 「ここが私の部屋だよ」

 クレアが真っ白な扉の前で止まり、ドアノブを回して開けた。

 扉の向こうに見えるクレアの部屋は調度品も少なく簡素な造りをしているが、きれいに整頓されていて居心地のいい部屋だと僕は思った。

 自室に僕たちを案内したクレアはベッドに腰掛けると、テレポートで椅子三脚をどこからか持ってきて座るように僕たちを促す。

 拒否する理由もないので僕たちはクレアが用意した椅子に座った。

 「それで?私はどうすれば良いんだい?」

 僕たちが座ったのを確認してから、クレアはグリフィンに視線を遣りながら言う。

 平穏を装ってはいるが、自分を王都に縛り付けていた束縛の首輪が外せるかもしれないと期待に胸を膨らませているのが見え見えだ。

 「いいけどさ、その前に報酬に何をくれるのか聞いてもいいかい?」

 やっぱりグリフィンはいつものグリフィンだったという事かと僕が思っていると、

 「初めからタダでやってくれるとは思えなかったがね。よりにもよって、それを欲するのかい・・・」

 読心の術を使っているクレアはグリフィンが何を欲しているのかわかっているようで、何を欲しているのかわかっていない僕とウィルにはなんでクレアが歯噛みしているのかわからなかった。

 「そうだよ。そのために重罪を犯してまでも君の首輪を外そうって言っているんだよ」

 よっぽど価値のあるものなのか、さっきまで乗り気だったクレアがグリフィンを睨んでいる。

 満面の笑みのグリフィンとそれを睨むクレアの間に沈黙が訪れ気まずそうにしていると、

 「ところでさ、グリフィン兄が欲しいものって何なの?」

 空気を読まないウィルが二人に質問する。

 よく言ったと思いながらも同時に、少しは空気を読んだらどうだと思いつつ僕は何も言わずに答えを待つ。

 「それは、エルフの至宝『世界樹の種子』だよ」

 答えたのはグリフィンだった。

 世界樹の種子に関しては昔読んだ神話に記述があったがかなり貴重な物のはずだ。確か、神々が作り出した原初の大木で無尽蔵に魔力を放出する世界樹、その世界樹が古の対戦で焼け落ちた後に残った七つの魔石を世界樹の種子と呼ぶらしい。その七つの魔石を人族、魔族、エルフ族、ドワーフ族、小人族、人魚族、獣人族がそれぞれ所有することになったと神話には書かれていた。

 まさか、そんな神器級の産物が実在していたことに僕は驚きが隠せなかった。

 「へぇ、グリフィン兄って植物好きだったっけ?」

 世界樹の種子がどんなものかわかっていないウィルはそんな見当違いなことを言っていた。

 「ちょっと待ちぃ、確かに世界樹の種子は現在私が所持しているけれどそれを誰かに譲渡するのは不可能さ。なぜなら、王都で使われてる魔道装置の動力にするために賢者アベルがこの店に封印してあって、封印を解けばアベルがすぐさまこの店にやってくるってわけ」

 必死に訴えるクレア、今日はクレアの色々な面が見れて面白いなと思いつつグリフィンの方に視線を遣ると、

 「そうか、じゃあ『初代エルフ王の心臓』でも良いよ」

 あまり気にした様子もなく言うグリフィンだが、初代エルフ王の心臓も世界樹の種子には劣るがかなり貴重なものだ。確か、古代魔法の一つ『神の癒し(ディアスヒール)』が魔力消費なしに何回でも使うことが出来るって本には書いてあった。

 「それもかなり貴重なものだけどもねぇ。構わないわ、ちゃんと束縛の首輪を外してくれるならいいわ」

 簡単に承諾するクレアと計画道理だとでもいうように不敵な笑みをするグリフィン。

 「じゃあ、始めようか」

 そういうや否やグリフィンは術式の構築に取り掛かった。

 解呪の術式はそんなに難しいものではないが、呪いや従属系の魔法、封印などの一部の魔法にはその魔法に合った術式が必要となる。たとえるなら、鍵穴に合ったカギを作るようなものだ。

 「そういえば、これ渡すの忘れたよ」

 グリフィンの紡ぐ術式を興味深く見ていると、突然ウィルに声をかけられる。視線を向けると、僕の時空石をこちらに差しだしていた。

 「そういえば刑務所に入れられたときに取られたんだった。ありがとう」

 ウィルから時空石を受け取り、お礼を言う。

 魔力を流して時空石の中身を確認すると、すべて無事だったようで安心した。

 「よし、これで完了だ」

 甲高いガラスの割れるような音がしてグリフィンたちに視線を向けると、クレアの首元に首輪が現れ光の粒子となって霧散していく。

 どうやら束縛の首輪は外せたようでクレアは嬉しそうに自分の首元をなでている。

 「これが報酬の『初代聖霊王の心臓』だよ。受け取りな」

 そういってゲートを出現させてそのゲートから真っ赤な宝玉を取り出し、グリフィンに向かって放り投げる。グリフィンが受け取った宝玉に視線を向けると、宝玉の中には脈動する心臓が入っていて奇麗ではあったが同時に気持ち悪かった。あんな状態になっても鼓動を刻んでるってことは、心臓の元の持ち主は生きたまま心臓を引き抜かれて魔石の中に封印されたって可能性もある。どっちにしても酷いことをするもんだなと僕は思った。

 「確かに受け取ったよ。じゃあ、俺は帰るよ」

 ウィルを抱きしめて頬にキスした後、グリフィンはテレポートで消えてしまう。

 それを見届けた僕たちは少しの間の沈黙の後にこれからのことを話し合うために行動を始めた。

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