表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の王  作者: 猫月 そら
3/3

第一章 ―朔― Ⅱ

目が覚めると、知らない場所にいた。


「起きたか。」


「ここは…?」


「私が定住している場所だ。さて、まずは色々決めようか。ついて来い。」


そう言って歩き出したので、わたしは慌てて後を追った。


外に出ると、今までいた場所が大きな洞窟のようなところだと知った。でも壁は岩のような気がするし、よくわからない。


「で?念願の魔王を前に、お前は何を望む。」


え………?


わたしはかなりの衝撃を受けた。魔王と言えば、三百年近く前から語り継がれている存在だ。代替りもせず、世界の王として君臨している。目の前にいる男の人は、いや、人と言って良いのかわからないが、とにかく、その人は、十代後半から二十代前半に見える。


「何だ。森の前ではあれだけ勇ましく叫んでいたというのに黙りか。時間の無駄だったな。」


「待って!!」


魔王が去ってしまう気がして、わたしは慌てて呼び止めた。


「雨を降らせる魔術を!土を豊かにする魔術を教えて下さい!このままではみんな死んでしまう!お願いします!お願いします……!!」


「私に雨を降らせるよう願うのかと思っていたが。」


「雨を降らせてもらっても、この先は?食べ物をもらうんじゃなくて、食べ物のつくり方とり方を学べと教わりました。それを教えてくれたじいちゃんは流行病にかかって………だからわたしが雨の降らせ方を教わりたいのです。わたしは村に帰れないけど、雨を降らせてみんなを助けたい。………………そしたら、また帰れるかもしれないから……」


ひたすら頭を下げる。お願いします、と頼むことしかできなかった。





「無理だ。」


「………っ」


しばらくの沈黙のあとに聞こえてきた言葉は、わたしが願っていたものではなかった。


「……どうして………」


「お前にはそれほどの魔力がない。魔力は修行で増やせはするが、生まれ持った才によって資質が決まる。お前に魔術を覚える資質はない。諦めろ。」


「そんな……」


『魔力』なんて、考えたこともなかった。わたしは役に立てない。……もう絶対に帰れない。

心が、深い深い谷底に墜ちていくようだった。





「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



わたしは地面に突っ伏して泣き叫んだ。


帰れない

帰れない

帰れない――――





「……うっ……ひっく………」



叫び疲れて声が枯れても、涙は止まらなかった。これからどうしたらいいんだろう。魔術を覚えることしか考えてなかった。


じいちゃんの病は治っただろうか。

わたしがいなくなって、みんなの食事は増えたんだろうか。

そろそろ井戸水も限界だ。

みんな死んでしまう。

また何も出来ないのか。



―――――――そのとき、絶望の中、手に水滴が落ちてきたのを感じた。



「雨…………?」



顔を上げると、魔王が両手を天に差し出すようにかざしていた。

空からは確かに雨が静かに降り注いでいた。


「お前には無理でも、私にはできる。お前の村がどこかは知らないが、今つくった雲は少しずつ移動しながら世界中に雨を降らせる。」


「……!!ありがとう!ありがとうございます……!」


これできっと井戸も大丈夫。

畑だってきっとよくなる。

わたしはお礼を言い続けた。


「……ありがとうございます……ありがとうございます………」


「別に礼はいらない。無償ではないからな。」


「え……?」


「さて、取引だ。といっても拒否権はないがな。」


取引……?わたしが渡せるものなんて何もない。

だけど―――


「何だってします!何でも言って下さい!!」


「何でも、とは大きく出たな。ではまずは名前だか―――――」


「は?」


え?名前?

予想外の言葉にわたしは失礼な反応をしてしまった。

これは仕方ないはず。魔王も怒ってなさそうだし大丈夫だ。うん。


「お前は今日から『朔』だ。」


そう言うと、どこからともなく葉が集まってきて、地面に『朔』と形作った。


「『朔』ってどういう意味?」


「………月のない夜。」



そのときの魔王の顔は、全く『魔王』には見えなかった。




◆◆◆◆◆


少し歩いたところに、綺麗な花壇があった。魔王が花を大切にしているなんて、誰が予想しているだろう。かなり驚いた。


「朔。この花は、毎年春に咲く。今年はちょうど今朝咲いた。」


それは、小さな薄紅色の花だった。五枚の花弁と数枚の葉。可愛らしいその花を、魔王はとても大切にしているようだ。


「次にこの花が咲く迄。春・夏・秋・冬を共に過ごそう。その間、私はこの世界の天候を安定させながら、朔に世界を見せる。そして四つの季節が巡り、またこの花が咲いたとき、朔の目に世界がどう映ったか、この先どのような未来を望むか、私に教えてくれ。その答え次第で、私はその先を決める。」


「世界……?未来………?」


「そうだ。この世界を『朔』がどう思うか。私はそれが知りたい。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ