長助の手伝い
村人達が神社に集まり、賑やかな声が宿に届くようになってきた頃。お琴は宿を出て、今度は清隆の近くにいるべく、長助の家で灯籠の修繕の手伝いをすることにした。
神社が見える距離になると、賑やかな声が一段と大きく聞こえる。先程の事があるといけないので、お琴はゆっくり歩いて、一旦神社の塀から中の様子を見る。神社は村人達が山車の準備をしており、宮司達は神楽を行う舞台を整えていた。寿言らしき人物は祭の準備に参加していないようだ。それなら神社の横を通って、長助の家に行っても大丈夫だろう。
神社を横切る時、清隆が心配になり、ふと横目で神社の様子を見る。昨日と変わらぬ祭の準備の様子にほっとしながら、長助の家の門の前に立つ。何と言って中に入ろうか。そんな考えが頭の中を巡る。
純粋に手伝いたいという思いはあるが、長助から話を聞き出して、清隆の役に立ちたいという思いも強い。神社では寿言に遮られてしまったので、せめて……という思いが、お琴の使命感を駆り立てる。よし、「手伝いたい」と言って中に入ろう……!と気合いを入れたその時、長助の家の門がギィィ……と音を立てて開いた。予想していなかったことに、一瞬どきっとしてしまう。
「あれ?あなたは……」
門から外へ出ようとした長助と目が合った。くすんだ緑色の小袖に襷掛けをしている長助は、また灯籠の修繕をするところだと見てすぐに分かる。
「あ、あの!お手伝いしたくて参りました!」
すぐに言わなければいけないという焦りから、つい力強く言ってしまう。お琴の力を込めた物言いに、長助は一瞬目をぱちくりさせるが、ふっと自身の力を抜かせるように笑った。
「ありがとうございます。大変助かります。では早速お願いします」
長助はお琴にお願いすると、門を開けたまま灯籠を両手に2脚ずつ持って、そのまま家の中へと入っていった。
「一緒にはいりましょう」
長助に誘われたお琴は、両手に1脚ずつ灯籠を持つと、そのまま長助の後に続いて、家の中へ入っていった。
「あ。出来上がった灯籠は縁側に置いてあるんですね」
作業部屋へ向かう途中の縁側を通る時、脇に置かれてある修繕し終えた灯籠達が目に入った。
「ええ。返すのは灯籠揃直前にしようと思いまして」
祭本番のぎりぎりまで嫌がらせをしてくる人がいるかもしれないから、祭当日に灯籠を返せば、よっぽどの不慮の出来事がない限り、灯籠が壊されることはないと踏んでいるということだろう。
「私もその方がいいと思います」
「そう言って下さり、ありがとうございます」
作業部屋に着いた長助の足が止まる。長助の両手が灯籠で塞がっていることに気づいたお琴は、
「あ。開けますね」
灯籠を1脚足の下に置くと、長助の前に立ち、作業部屋の障子を開けた。
「どうぞ」
障子と一緒に左へ動いて、長助に部屋の中に入るよう勧める。
「ありがとうございます」
長助は一礼すると、そのまま中に入っていった。お琴も後に続いて中に入った後、ゆっくり障子を閉めた。