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おてんば娘と一寸郷士(ごうし)  作者: 宮羽つむり
おてんば娘と椿屋敷
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茶屋での昼食

昼食は茶屋で摂ることになっていたようで、一旦宿の方に顔を出したお琴は2人を待たせてしまっていることに気づいた。

「ご、ごめんなさい!遅くなりました!郷士様の手伝いをしていて……」

茶屋に入るなり勢いよく謝ると、左端の小上がりに座っていた清隆と右忠と目が合った。

「大丈夫よ。茶屋でお昼ご飯を食べると言わなかった私もいかないのだから」

柴売りの格好の右忠がにこっと微笑む。小上がりを見ると、昼食が載った膳が並べられてあり、自分の場所だけが空いている。お琴は「失礼します」と呟き、膳の前に座る。

「郷士の手伝いとはどういうことだ?私は情報を集めてこいと言ったはずだが……」

清隆は眉間にしわを寄せている。お琴の勝手な行動に不快感を示しているようだ。話しづらい雰囲気を漂わせている。

「こぉら。殿方と2人きりになったことに対して怒らないの。たまたま情報を集めるに必要な行動だったのだから、許してあげなきゃ。で、手伝いって何をしていたの?何か聞き出せた?」

右忠は清隆を諭した後、お琴に尋ねた。お琴は小さく首を縦に振る。

「えっと、燈籠揃の時に村人達が使う燈籠の修繕をしていました。破れた紙を貼り直したり、壊れた木枠を直したり……。あまりにも量が多いので理由を尋ねたところ、郷士様は反郷士派の家の燈籠ばかりだから、自分に対する嫌がらせ目的だろうと言っていました」

「ふぅん……。ということは、郷士は村の者に認められていない事実を認識しているってことね。あの郷士、私達の時よりもお琴の時の方が自分のことを話すのね。……郷士から話を聞き出す時にはお琴の力が必要かも」

右忠は独り言のように呟く。

「まぁ、食べなから続きを話しましょう」

清隆が言うと、茶屋の隅に立っていたお信が店の戸を静かに閉めた。茶屋の中が少し暗くなる。

「噂話とかの情報を整理するだけだけど、一応外に話が漏れないようにね」

右忠がお信の行動について説明する。お信の行動に対して、どうしてだろうと不思議に思っていたお琴は、そんなに顔に出ていたのかな……と、分かりやすい自分が少し恥ずかしくなった。

「では、ごゆっくり。私達は茶屋の軒下でご飯を食べながら、人避けをしています」

お信は勇作と一緒に握り飯を数個持って外へ出ていった。役人御用達の店だけあって、静かに的確にこちらの要望通りに動く店主達に感心する。いずれ自分も清隆様に対して、このように動きたいな……と思う。

「……じゃあ、皆揃ったし、昼食を食べましょう」

右忠に合わせて、「いただきます」と手を合わせる。そして右忠、清隆、お琴の順に昼食を食べ始めた。

「……あ。早速だけど、私の方はね、郷士の弟と神主の娘が懇意にしていたっていう話を聞いたわ。もしかしたら2人の仲を引き裂く為に郷士が弟を……っていう話もあったけど、この話は私に話してくれた人だけの考えみたいだから、信憑性はないわ」

右忠が聞いてきた話を早速清隆とお琴に伝える。

「……では、弟と神主の娘が懇意にしていたという話は信じてよさそうなのですね」

清隆の問いに右忠は静かに首を縦に振る。

「村人の多くが仲睦まじく話をしている2人を見たことがあるそうよ。だからそう思ってもいいと思う」

右忠の話を聞いて、お琴はふと川辺で会った女の子を思い出した。あの子が神主の娘ではないだろうか。しかし、そう確信を持つ為にはあの子の素性を聞き出さなければならない。また会えると良いな……。そんなことを考えながら、無言で昼食を食べる。

「で、清隆の方はどうなの?ホオジロと話は出来たんでしょう?」

今度は清隆の話す番になった。お琴も気になっていたので、箸を休めて清隆の方に顔を向ける。

「あのホオジロは、「一筆啓上仕候」と弟がいなくなる直前に書いた手紙の一文をずっと兄に伝えていたそうです。弟がいなくなる直前に書いた手紙があることを伝えたくて、生垣で鳴いていたそうです」

「……手紙?あのホオジロ、手紙の一文を覚えているのなら、内容も覚えているのではないかしら?」

右忠の質問に、清隆は首を横に振る。

「それが、たまたまホオジロが鳴いた時に弟が「自分が書いた決意の手紙と同じことを話している」と言っているのを聞いただけなので、内容は知らないそうです」

「決意の手紙ということは、いなくなった理由が書かれてあるかもしれないってこと?」

「その可能性はありますよね。ホオジロはいなくなった理由を知りたくて、手紙に何か書いてあるのではと思って、兄に手紙があることを伝えていたそうです」

お琴は燈籠の修繕をしていた時に話した内容を思い出す。

「確か……、先ほど郷士様の手伝いをした時に、郷士様は弟について、何の前触れもなくいなくなり、いなくなってからも何の音沙汰もないと言っていました。手紙のことは知らない素振りでした」

清隆と右忠は「ふむ……」と考え込む。自分が持っている情報が、2人に考えさせる一石になったようで、少し嬉しく思う。

「……もしかして、恋仲の神主の娘が手紙の受取人かも」

右忠の閃きにはっとする清隆。

「その可能性もありますね。……お琴が昨日出会った神社の関係者。その女の子が神主の娘である可能性が高い。お琴、彼女に会ったら自分の素性を明かす代わりに、彼女の素性も聞き出しては貰えないか?」

清隆の頼みに頷いて答える。女の子についての考えが清隆と同じ考えでよかったと安心する。

「そして彼女が神主の娘だったら、郷士の弟が書いた手紙の存在を知っているかどうか聞き出してみてくれ」

清隆のその言葉に対して、すぐに首を縦に振るのは難しかった。ほぼ初対面の人間にそんな事を聞けるかどうか自信がない。そんなお琴をじっと右忠は見つめていた。そして、

「……難しいと思うのは当然だけど、偶然でも神社と関わりのある者と接点を持てたお琴にしか今はできないの。私達もなるべく神社の者と接点を持てるようにするけれど、今はお願い!」

右忠が必死な表情でお琴に訴える。……首を縦に振るしかなかった。

「ありがとう。では昼食を食べ終えたら、私と清隆は郷士の家に行く、お琴は昨日の女の子と話をしてみるということで。お願いね」

念押しした右忠は、清隆とお琴の返事を聞かないうちに昼食を食べ始めた。

出会えるかどうか分からないけれど、できることは精いっぱいやるしかないと腹を括ったお琴は、勢いよく昼食を口の中にかき込んだ。

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