清隆の部屋で
「清隆様、お布団を畳みに参りました。失礼します」
お琴は清隆の部屋の障子を開ける。部屋の真ん中に布団があるが、清隆の姿は見えない。
「清隆様、どこに行ったのかしら?」
部屋の周りを見回すと、
「オイラはずっと廊下にいるぞ」
とお琴の後ろから声が聞こえた。廊下の方を向くと、仁王立ちで偉そうに両腕を組んでいる清隆と目が合った。
「あ、廊下にいたのですね。右京様の部屋にそのまま行ってしまったので、気がつきませんでした。ごめんなさい」
「まぁ、許してやろう」
清隆はお琴と障子の間をすり抜けて、部屋の中に入る。
「あの、お布団を畳んでもよろしいですか?」
「あぁ、頼む。オイラは隅で待っている」
清隆が部屋の隅に行ったのを確認した後、布団を畳む。
「……気を遣って下さり、ありがとうございました」
ふと清隆を見ると、清隆が顔を赤らめながら、ニヤニヤしている。
「……何ですか?」
「いや、お琴は本当にオイラのことが見えているんだなと思って」
「何言っているんですか?当たり前でしょう」
あまりにも当たり前のことを清隆が言うので、拍子抜けしてしまう。
「当たり前になっていることに感謝しなければな」
「え?何か言いましたか?」
「いや、何でもない」
清隆の言葉を聞き取れなかったので聞き返すも、清隆はニヤニヤするばかりで、もう1度言おうとはしない。お琴は気になるも、清隆様が笑っているからいいかと思うことにした。
「お琴、ありがとな」
「え?何がです?」
「ただ言ってみたくなっただけだ」
清隆が口角をきゅっと上げて笑う。
「特段何か覚えはないのですが……。でも、「ありがとう」と言われると、何だか嬉しいですね」
お琴もぱっと花が咲いたように笑う。お琴の笑顔を見た清隆は、顔をうずめてその場にしゃがみ込んだ。
「え、清隆様。どうなさったのですか?どこか具合でも?」
突然の清隆の行動に驚いて近づこうとするが、
「だ、大丈夫だ!」
お琴の気配を感じ、すくっと清隆は立ち上がった。これ以上近づくなという雰囲気を漂わせている清隆に対して、引き気味になってしまう。
「だ、大丈夫なら良いですけど……。では、私はこれで部屋に戻ります」
お琴は少し寂しそうな顔をして、清隆の部屋を出ていった。
「あぁ……。嬉しくなって気持ちが高ぶってしまった自分が情けない……」
1人残った部屋で清隆は自己嫌悪に陥ってしまった。