右忠の準備
お信に言伝を伝えたお琴は、朝食までの時間にやる仕事として清隆と右忠の布団を畳むことにした。まずは右忠の部屋へ向かう。
「右京様、お布団を畳に参りました。失礼します」
障子を開けると、右忠が鏡とにらめっこしながら、化粧をしているところだった。そういえば先程の右忠は化粧をしていなかったことを思い出す。
「た、大変失礼致しました!で、出直してきます!」
「いいわよ。ここで朝餉を食べるのだから、布団を畳んで貰えるとありがたいわ」
右忠は出ていこうとするお琴に向かって手招きをする。
「……では失礼します」
早速右忠の布団を畳む。そして持ち上げた布団を部屋の隅に置くついでに、ふと右忠の方をちらりと見る。本当に化粧をしている女の人みたいだと思っていると、鏡越しに右忠と目が合ってしまった。慌てて逸らそうとするが、
「女子に化けるのも大変よね。朝晩の準備が本当に大変よ……」
化粧をし終えた右忠が今度は鏡ではなくお琴と向き合う。目を逸らせないと観念したお琴は、右忠のため息混じりの一言を聞いて、
「……もしかして昨日の夜も今日の朝も女子に化ける準備の為に出かけていたのですか?」
と、つい思ったことを口に出してしまった。右忠はしまったという顔をするが、これ以上言わなければ大丈夫と判断したようで無言を貫こうとする。
「右京様は化粧をしていない姿で歩き回ることを嫌がるのに、昨日の夜も今日の朝も素顔で外に出ているんですもの。何をしているのか気になりますよ」
お琴の言葉に参った右忠は正直に話す覚悟を決めたのか、ふぅと長いため息をついた。
「……確かに私は化粧をしていない顔で出歩くのはとても嫌よ。でもね、こればかりは素顔じゃなきゃ出来ないのよ」
右忠が自分の頬をさする。
「一体何を……」
「髭剃りとすね毛剃り」
思わぬ答えに、お琴の目が点になる。
「髭……?すね毛……?」
「そうよ。朝晩2回剃らないと、すぐに生えてきちゃうのよ」
右忠はお琴に自分の顔を近付け、すね当てを外した足を見せる。お琴はドキリとするが、ついまじまじと見つめてしまう。顔もすねもすべすべで、綺麗な右忠に思わず見とれてしまう。
「髭やすね毛が濃い女の人ってあまりいないでしょう」
右忠の言葉に対して、人形のように首をカクカクと縦に振ることしかできない。何と返事をすればいいのか分からず、顔の熱だけが急上昇していく。
「昨日は恥ずかしくて言えなかったけれど、逆に気にさせてしまうなら、さっさと言った方が良かったわね。お琴?大丈夫?」
「だ、大丈夫です……。……教えて下さり、ありがとうございます。男の人が女の人に化けるのは大変なんですね……」
「ま、仕方ないことだから。じゃあ、また朝餉にね。布団畳んでくれてありがとう」
右忠はそう言うと、半ばまだ惚けているお琴を部屋から出した。衝撃の事実にお琴はまだ驚いていたが、
「……清隆様の部屋に行こう」
と思い直し、清隆の部屋へ向かっていった。




