朝食の件
宿に戻ったお琴は、静かに小上がりに腰をかける。
「……清隆様、朝食如何致します?」
お琴の問いに答える為に、清隆はお琴の膝の上に乗って、お琴と向き合う。
「うーん……。オイラ、米粒1つで充分なんだけどなぁ……。でも、あの気迫の2人に敵わないし……」
考えている清隆を静かに見守るお琴。すると、
「何しているの?」
と後ろから声がした。思わぬ事に驚いたお琴は、跳び上がるかと思う位びくっとなる。後ろにいたのは柴売り女の格好をした右忠だった。右忠は「よっこいしょ」と小さく言って、お琴の隣に座る。
「そんなに驚かせちゃった?ごめんなさいね」
「い、いえ!失礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんっ」
「いいのよ。今は昨日と同じ柴売りだから、柴売りに敬語なんて可笑しいでしょう。それより何かあった?清隆の声も聞こえたから、何か話していたみたいだけど」
右忠は屈託のない笑顔で尋ねてきた。
「あ、あのお信さんから今日の朝食はどこで食べるのか尋ねられて……。それと清隆様はもう小さい姿なので、清隆様の朝食は断ったのですが、握り飯だけでも食べるように勧められて……。どうしたらいいのか話し合っていたのです」
説明を聞いた右忠はきょとんとした顔でお琴を見る。
「何だ、そんな事だったの。清隆の分の握り飯は私が食べてあげるわよ。いつも朝餉の量は女性が食べる量と一緒にしてもらっているから、握り飯1つくらい軽く食べられるわ。それで米粒1つを清隆に渡せばいいんでしょ?」
「そうして頂けると、大変ありがたいです」
清隆がすかさず礼を言う。右忠は清隆の姿は見えないが、にっこり笑って返す。
「私は準備万端だけど、今日の朝餉は私の部屋の方がいいわね。その方が握り飯も渡しやすいしね」
右忠の采配を聞いたお琴は、すぐにお信さんに伝えにいこうと思いたつ。
「それでは私、そのようにお信さんに伝えに行って参ります!」
お琴はぱっと立ち上がると、そのまま宿を出ていってしまった。
「……清隆。私、部屋に戻りたいのだけれど、上がっていいかしら?」
「大丈夫ですよ。ここから少し離れますので」
「悪いわね。清隆はどうするの?部屋に戻る?」
「私はここでお琴を待ちます」
「分かったわ。じゃあ、また後でね」
右忠はゆっくり小上がりへ上がると、そのまま部屋へ戻っていった。