芋粥を食べた後
「右京様方。お待たせしました」
奥で料理をしていた勇作とお信がお盆を持って出てきた。お盆に載っている茶碗から湯気が出ている。
「疲れているでしょうから、芋粥をご用意しました」
勇作はそう言うと、自分が運んでいる2つの茶碗を右京と清隆の元に置いた。お信はお琴の元に芋粥が入った茶碗を置くと、お琴の後ろで正座する。
「俺はあまり村の噂とか分からんので、お信に聞いて下せぇ」
勇作は頭をペコリと下げ、また奥へと引っ込んでしまった。お琴はじっと芋粥を見る。芋粥はすりおろした山芋をご飯の上にかけたもので、庶民のお琴が食べることができない高級な食べ物である。お琴の目の前にその芋粥が置かれている。お琴は自分の口の中が唾液でいっぱいになっていることに気がついた。ゴクリと喉の方へ飲み込む。そんなお琴の様子を見たお信はクスリと笑い、
「まぁ、まずは芋粥を召し上がって下さい。話は食べながらゆっくりしましょう」
と3人に提案した。すると3人はぱぁっと顔を輝かせ、
「ではお言葉に甘えて」
という右忠の言葉にお琴と清隆は頷き、芋粥を食べ始めた。
「わぁ、おいしい……!」
芋粥をひと口食べたお琴は思わず左手を口に当てた。山芋の甘さが口いっぱいに広がっている。こんなにおいしいなんて知らなかった……とお琴は感動した。お琴の匙が進んでいるのを見て、清隆は優しく笑いながら静かに芋粥を啜る。右忠はひと口ひと口芋粥をゆっくり食べている。3人のそれぞれ違う食べ方を見て、お信はにこにこ笑っている。しばらく芋粥を食べる音が響いていた茶屋だったが、右忠は自分も含めた皆の茶碗の中の芋粥が残り少なくなってきたことに気がつくと、
「あ、お信さん。先ほどの話の続きを聞かせて貰えないですか?郷士の弟が飼っていたホオジロの話を」
と茶碗と匙を自分の膝元に置いて、お信に話の続きをお願いした。右忠の様子を見た清隆とお琴も最後のひと口を急いで食べると、右忠と一緒に頭を下げた。
「皆、頭を上げて。そんなにお願いされたら、話しづらくなっちゃうわ」
お信は慌てて両手のひらを横に振り、3人に頭を上げるように言った。3人は頭を上げると、一斉にお信の顔を見る。今度は両手を頬に当て顔を赤らめるお信だが、
「そんなに一斉に見られると照れちゃうけれど、話すわね」
と言って深呼吸すると、元の表情に戻った。
「えっと……」
お信が話を始めた。