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おてんば娘と一寸郷士(ごうし)  作者: 宮羽つむり
おてんば娘と椿屋敷
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茶屋の中

茶屋の中は真ん中が奥の障子の部屋に続く道になっており、道を挟んだ左右が小上がりになっていた。小上がりは2枚の板で3つの座る場所に区切られている。それぞれの場所には4枚の座布団が十字の形で並べられている。座布団は好きな形にして座って良さそうである。

「じゃあ、ここに座りましょう」

右忠が左側の1番奥の場所を選んで、草履を脱いで上がる。右手で左袖を押さえ、左手で草履を揃える右忠。右忠が1番奥の座布団に座るのを見た清隆は、右忠の後に続いて、草履を脱いで揃えると小上がりへ上がる。

「お琴、おいで」

右忠の右隣に座った清隆にお琴は誘われた。お琴は草履を脱いで上がり、真ん中で脱いだ自分の草履と右忠と清隆の草履の位置を反対にして、入り口側の座布団に座った。茶屋の中に涼しい風が通る。お琴はやっとゆっくり休めることを嬉しく思いながら、気を抜くと、鳴りそうなお腹に力を入れる。

「皆さん、お茶をどうぞ」

お信が3人の所へ急須と小ぶりな茶碗を持ってきた。右忠、清隆、お琴の順に抹茶が入った茶碗を受け取ると、3人は一気に抹茶を飲み干した。

「あらあら、随分と喉が渇いていたのね。もう1杯どうぞ」

お信は3人の飲みっぷりを見ると、急須を持って3人が座っている場所へ上がり、2杯目の抹茶を先ほどと同じ順で注いでいった。

「ありがとうございます、お信さん」

右忠はそう言って、今度はゆっくり抹茶を飲む。

「かたじけない」

清隆はお信に一礼して、茶碗に口を付ける。

「お琴ちゃんもどうぞ」

お信が笑顔で急須をお琴の方へ向ける。

「ありがとうございます」

お琴は頭を下げ、自分が使っている茶碗を持ち上げ、急須の近くへ寄せる。お信がお琴の茶碗に抹茶を注ぎ始めると、

「女将さん。この村の郷士の跡目争いをした兄弟のことや兄弟に関係することについて、噂でも何でもいいから教えてくれませぬか?」

と清隆が口火を切った。お信はお琴の茶碗から急須の注ぎ口を離すと、空いている左手を左頬に添えて、ふぅとため息をついた。

「……清隆様はその事について調べに来たのですね。ご兄弟について……。ご兄弟は顔も背格好もそっくりだったから、年子というよりも双子みたいなご兄弟だったそうよ。大晦日の晩と年明けの朝にお生まれになったからだと村の人達が言っていたわ。それで弟さんの方が活発で結構お父様の仕事を積極的にお手伝いしていたものだから、村の人の多くは弟さんの方がもしかしたら跡継ぎになるのかもと思っていたのよ。だけど、ねぇ……。怪しい形で跡を継いだお兄さんに反発して、これから始まる豊穣祭の手伝いをしない村人が少なからずいると聞いているわ。……それに今、不気味な噂もあるの」

お信が声を落とす。3人は聞き漏らさないように前かがみになる。

「弟さんがいなくなってから、弟さんが飼っていたホオジロが毎日大声で奇妙な鳴き方をするようになったんですって」

お信の言葉に3人は一瞬きょとんとなる。その時、一瞬気を抜いたお琴の腹の虫が「ぐるるるる」と盛大に鳴った。今度は清隆、右忠、お信がきょとんとした表情でお琴を見つめる。お琴は恥ずかしくなって、お腹を抑えながら俯いてしまう。

「おい、お前。お琴さんだけでなく、皆腹が減ったような顔をしているだろう。まずは軽く食べ物を食べさせてから話をすればいいじゃねぇか」

と勇作が奥から出てきて、お琴に助け舟を出してくれた。お信ははっと気がつき、

「そうね。今、作ってくるから、ちょっと待っていて。作り終えたら、また続きを話すわね」

そう言って、勇作と共に奥の方へ行ってしまった。残された3人は、お信からどんな続きの話が聞けるのか見当はつかないが、とりあえずどんな食べ物が出てくるのか、楽しみに待つことにした。

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