神社の鳥居前
右忠はお琴と清隆を村の真ん中にある神社の鳥居の前まで案内した。
「この村の面白い所は神社を中心に四方に道が分かれているので、違う方角に行く場合は必ず神社の鳥居の前を通るようになっているの。私達は南から西の村外れへ行こうとしているから、1回この鳥居の前を通らなきゃいけないって訳。まぁ、神社の左隣は例の郷士の家だから、様子が見れていいかもね」
右忠は鳥居の下でちらりと左隣の郷士の家を見た。右忠につられて、お琴と清隆も郷士の家を見てみる。郷士の家は竹柵に囲まれた藁葺き屋根の平屋だった。椿屋敷といい勝負だなぁとお琴が思っていると、
「チョーサン、イッピツケイジョウツカマツリソウロウ、チューサン!」
と突然、郷士の家の方から掠れた大声が聞こえてきた。な、何?誰?とお琴が驚いていると、
「うるさい!周助はいないんだ!お前は家から出ていけ!」
という男の人の低い声が聞こえた。すると郷士の家から1羽の鳥が飛び立ち、その後すぐに小石が道に向かって飛び出してきた。おそらく、あの家の誰かが鳥に向かって石を投げたのだろう。
「あの鳥はホオジロだ」
お琴と一緒に郷士の家を見ていた清隆が呟く。多くの動物と触れている清隆だから分かったようだ。
「最初に聞こえた声はよく分からなかったけれど、次に聞こえた声の「周助」っていうのは、いなくなった弟の名前よ」
右忠が静かに、しかし鋭い声でお琴と清隆に教えた。清隆ははっとした表情で右忠を見る。
「……確か、あの郷士の家も私の家と同じで祖父母も父母も亡くなっていますよね」
清隆の言葉に右忠はゆっくりうなずく。
「ホオジロの声の次に聞こえた声の主は跡継ぎになった兄だと思う」
右忠の判断に、お琴はその可能性は高いと納得する。郷士の家の子どもを呼び捨てで呼べるのは、同じ家に住む家族で呼ばれた相手よりも年上の人間しかいない。しかも祖父母と父母が亡くなっているのなら、残るは兄弟、又は血縁で年上の人しかいない。お琴は御厨村の郷士の家族構成を詳しく知らないので、ここまでしか推測できないが、清隆がうんうんと首を縦に振っているので、3人の意見は一致していると判断した。
「最も新しい御厨村の情報を得る為にも、茶屋に行かないとね。じゃあ、行こう」
右忠はそう言って、再び歩き始めた。清隆とお琴は並んで、右忠の後に付いて行った。




