1本道で
お琴は道祖神が祀られている場所を目指して歩いている。1本道の先に立っている木を目指して、お琴が精いっぱい歩いていると、向こうから人影がこちらに向かってきていることに気がついた。段々お琴に近づいてくる人影。誰か分かった瞬間、お琴は嬉しくなり、顔がほころんだ。
「お琴」
「清隆様!」
お琴は清隆の元へ駆け寄った。庶民口調の小さな清隆は可愛いけれど、元の大きさに戻った清隆は綺麗だな……と、お琴は清隆をまじまじ見て思う。
「疲れていないか?小さいとはいえ、私を肩に乗せて歩いていたのだから、気を遣ったであろう」
清隆がお琴を心配そうに見つめる。
「主を肩に乗せて歩くのだから、使用人が気を遣うのは当然です。清隆様は使用人に気を遣わないで下さい。それに私は清隆様を肩に乗せての歩きは楽しかったですから、全然気にしないで下さい」
お琴は拳を作った両手を胸の所まで上げる。その様子を見た清隆はムッとした表情を見せ、下唇を突き出す。
「私は確かに主だが、それと同時にお琴と友である。友を気遣って何が悪いのだ?」
清隆の言葉を聞いたお琴は、またやってしまった……と反省した。シュンとなり、俯くお琴の頭の上に清隆は優しく手を置く。
「……私もお前の肩に乗っての旅は楽しかったが、小さいままでの旅よりも、元の大きさに戻った姿でお前と一緒に歩きたくて、ここに来たのだ。顔を上げて一緒に歩いてくれないか?」
清隆がお琴に頼む。お琴は驚いて、慌てて顔を上げる。まさか、そんな事を言われると思わなかったのだ。
「良かった。顔を上げてくれた」
清隆はほっとした表情を浮かべながら笑う。清隆のそんな表情を見たら、お琴は無意識の内に顔が赤くなってしまった。
「お琴の顔が赤い。笠を被っているとはいえ、やはり暑いだろう。早く一緒に木陰に行こう」
清隆はお琴の手を引いて歩き始めた。お琴はますます体内の熱が上がっていくのが分かる。清隆様にこの熱が伝わってしまったらどうしよう……とお琴は思いながら、清隆と一緒に右忠が待っている道祖神の所まで歩いていった。