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おてんば娘と一寸郷士(ごうし)  作者: 宮羽つむり
おてんば娘と椿屋敷
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道祖神の茂み

泉の一件の後の3人は……。右忠は朝よりも足取り軽く歩いているが、お琴と清隆は一言も話さずに右忠の後を付いてきている。

日もだいぶ上り、東西の山の真ん中に太陽が上ってきた頃。田んぼに挟まれた一本道を歩き続ける中、突然清隆が、

「あ、太陽があんな所に!お琴。すまぬが、人ひとりが隠れることができる茂みを探してはくれないか」

とお琴に頼んできた。お琴は慌てて周りを探すが、それらしき茂みがない。清隆の声を聞いた右忠ははっと気がついた。

「清隆、そろそろ大きくなる時刻になるのだな。少し離れているが、御厨村の近くに道祖神が祀られているところがあり、そこは旅人が休めるように木陰と茂みがある。お琴の足より、私の足で先に行った方がいいかもしれない。私の肩に乗れ!」

「右忠様、かたじけないです!」

お琴の近くに清隆は肩を寄せ、清隆が乗りやすいように膝を曲げる。清隆はピョンとお琴から右忠の肩に乗り換えた。

「お琴、清隆は乗った?」

清隆の姿が見えない右忠は、お琴に尋ねた。お琴は首を縦に振ると、

「じゃあ、私達はひと足先にこの先の道祖神の所に行くから!お琴はゆっくり後から来て」

右忠はそう言って、びゅんと走り出した。お琴はすぐに小さくなっていく右忠を見て、あぁ、私の歩みに合わせてくれていたのだと思った。

「私も早く追いつかないと!」

お琴はそう決めて、歩みを急いだ。



右忠は道祖神が祀られている場所にたどり着いた。道祖神は1本の木に寄り添い、その後ろには中央が丸く囲まれた茂みがある。おそらく道祖神に年に1度、感謝の舞をする時のための茂みなのだろう。大人の男の人が胡座をかいて座ると、見えなくなるくらいの大きさの茂みである。木陰で走り切って疲れた右忠はぜぇぜぇと息切れをしている。清隆は右忠から振り落とされないように、かなり強く肩部分の衣を握っていたので、手をひらひらさせて、手の痺れをとっている。

「ふぅ……。この道祖神の茂みなら元の大きさに戻っても隠れるし、着替えもできるだろう」

「ありがとうございます。ちょっと茂みに行ってきます」

清隆は茂みの中に隠れていった。右忠はガサゴソという小さな音が茂みの方から聞こえたので、清隆が隠れたのだろうと判断した。右忠が木陰で涼みながら、自分が走ってきた方向に目をやる。すると、黒い人影1つがこちらに向かってきているのが見えた。

「あ、お琴が急いでこっちに来ているぞ。着替えの風呂敷はお前の姿が見えてから渡すからな」

右忠はたすき掛けしていた風呂敷を解く。するとその時、「ボンッ」という何かが破裂するような音が響いた。

「お、大きくなるな」

右忠は清隆に背を向けたまま呟く。

「……右忠様、申し訳ないのですが、着替えが入っている風呂敷を頂いてもよろしいですか?」

「あぁ、そうだったな」

右忠は茂みの方へ行くと、清隆が背を向けて、丸くなっていた。

「ほら、持ってきたぞ」

「ありがとうございます」

右忠が声をかけると、清隆は顔だけ右忠の方に向け、風呂敷を受け取った。清隆が風呂敷を開き、着替えをし始めたのを右忠はちらりと見た後、1本道の方を見る。お琴の姿がはっきり見えてきていることに右忠は気がつく。

「清隆、早く着替えた方がいいぞ。お琴がもうじき来るぞ」

「本当ですか!急ぎます」

清隆は右忠の忠告を聞いて、急いで着替えをする。

「……ふぅ、終わりました。右忠様、ありがとうございました。お琴はもう来ていますか?」

茂みから出てきた清隆は、小袖に括り袴を着ていた。

「着替えが間に合って、良かったな」

「あの道の真ん中で突然全裸男が現れたら、もう収拾つかなくなりますよね……」

「確かに」

清隆と右忠はお互いの顔を見て、フッと笑い合った。

「では、右忠様。もう少し木陰で休んでいて下さい。私はお琴を迎えに行ってきます」

「あぁ。いくらオレでも2人の仲を邪魔するような無粋な真似はしないよ」

右忠は木陰に座り、手をひらひらさせる。

「ありがとうございます」

清隆はそう言うと、お琴の方へ向かって走っていった。

「……何でオレといる時は素直に言えるのに、お琴がいると素直に言えないんだろう?不器用な奴だよなぁ」

右忠は小さくなっていく清隆を見つめ、ポツリと呟いた。

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