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おてんば娘と一寸郷士(ごうし)  作者: 宮羽つむり
おてんば娘と椿屋敷
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お琴とお紗世

「お紗世ちゃん!」

お琴は裁縫を教えてくれるお茂さんの家に行く途中で、友達のお紗世に出会った。お紗世は裁縫道具を包んだ桃色の風呂敷を抱えながら可愛らしく歩いている。

「あ、お琴ちゃん。今日はお休みするって万吉おじさんが言っていたから心配したんだよ。もう今日の裁縫の手習いは終わっちゃったんだけど……」

お紗世は伏し目がちにお琴に伝えた。お紗世は可愛らしい顔立ちなので、どんな表情をしても様になる。もえぎ色の小袖がお紗世の可愛らしさを際立たせている。

「あ、大丈夫。手習いは終わっていると思っていたから。ただ、お紗世ちゃんに謝りたかったの。ごめんね、今日一緒に行けなくて」

お琴はお紗世に頭を下げた。お紗世は頭を上げるよう言う代わりにお琴の左肩を触った。

「お琴ちゃん。お茂さんの家に向かっていたということは、もう外出しても大丈夫なの?」

お紗世はクリッとした瞳でお琴を見つめてきた。父親似の小さな奥二重の自分にはできない技だな……とお琴は思った。

「う、うん!大丈夫!家の用事は終わったから、もう遊べるんだ」

お琴は嘘をついた。しかし、お紗世はお琴の言葉に目を輝かせた。

「本当!?嬉しい!じゃあ、うちに来ない?」

お紗世は今度はキラキラした瞳でお琴を見つめてきた。このお紗世の瞳に見つめられた人は大抵断れない。

「いいよ、遊ぼう!」

お琴はお紗世と一緒にお紗世の家へ向かった。



「お琴ちゃん、見て!この簪、そこの紅屋で買ったの」

「あ、素敵!その簪、今度のお祭りの時に付けていくの?」

お紗世の部屋で、お琴とお紗世はおしゃれ話に花を咲かせている。2人がキャッキャ楽しんでいると、

「おーい、うるさいぞ」

という声が聞こえたと同時に、お紗世の部屋の障子が開いた。

「あ、兄さん!勝手に開けないでよ!」

お紗世がムスッとした顔で障子の方を見た。そこにはお紗世の兄・新之助が立っていた。新之助はお紗世に似て大きい瞳を持つ優男だ。

「新之助さん、お邪魔しています」

お琴はぺこりと一礼した。

「お琴ちゃん、久しぶり」

新之助は笑顔で返した。

「女の子は華やかだけど、賑やかすぎるのが玉にきずだな」

新之助は困ったように笑いながら、お琴とお紗世を見る。

「ちょっと!失礼な言い方じゃない」

お紗世は言い返しながら、新之助に詰め寄る。

「いや、華やかでいいんだけどさ、声が大きいからもう少し抑えて欲しいだけだ……」

新之助は両手のひらをお紗世に向けながら、頼むように言った。その時、

「すみません!うちのバカ娘が来ていませんかっ?」

お琴の耳に聞き慣れた声が聞こえてきた。

「あ、お琴ちゃんのお父さんの声じゃないのか?」

「あら、本当ね」

新之助とお紗世にも声の主が分かっていた。お琴は声の主を確信した途端、青ざめた。

「じゃ、じゃあ、私、これでお暇するね」

お琴はそーっとお紗世の部屋から出た瞬間、

「このバカ娘!」

万吉の声が聞こえ、お琴は左耳を引っ張られた。万吉はお紗世の部屋の前まで来ていたのだ。

「痛たたたた!」

「新之助君、お紗世ちゃん。うちのバカ娘がお邪魔して悪かったね」

「いえ……、俺は全然構わないので……」

「私の方こそ、家に連れてきてしまって申し訳ありません……」

「いえいえ、また家にも遊びに来てくださいね。では、私達はこれで」

万吉は一礼して、耳を引っ張ったままお琴を連れ帰った。新之助とお紗世は呆気に取られたまま、去りゆく万吉・お琴親子を見ていた。


「全く、店の手伝いを頼んだのに逃げるとはいい根性だ!」

「痛いって!痛いって!」

万吉は外に出ても、お琴の左耳を引っ張ったまま家に向かっていた。

「バカ娘!こんなふざけた根性は通い奉公で鍛え直してもらう!」

「痛いって!離してよ!」

左耳の痛さで万吉の話を聞いていなかったお琴だが、家に帰ったら詳しく話を聞くことになる。

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