清隆と小人
「小人と榛名家の関わりの答えだが……。実は榛名家の男子は代々、小人になってしまうという呪いを受け継いでいる。だから、お琴がこの屋敷で見た小人は、榛名家の男子……つまり私なのだ。私の場合は半日ずつ小人と人間の姿に変わるのだが……」
突然、清隆から確信を突く話をされたお琴は、きょとんとしてしまう。しかし、自分が知りたいと望んだことだから、しっかり話を聞かねば!と思い直した。
「お琴は一寸法師という話を知っているかい?」
清隆が突然お琴に尋ねてきた。お琴は一瞬、虚を突かれたが、
「は、はい。御伽草子の中のにある物語ですよね?」
と素直に答えた。
「あれが本当の話だとしたら信じるかい?」
「え?」
「実はあの話は私の祖父の話なんだ。事実の部分もあるし、虚飾の部分もあるのだが……」
「は、はぁ……」
「あの話の真実の部分は、祖父が鬼退治をした事と打出の小槌で大きくなる事が出来る事、それにより姫と結ばれる事。この3つだ」
「では、虚飾の部分は……?」
「あの話では一寸法師は鬼と偶然出会って退治することになるのだが、実は鬼退治は榛名家の使命だったのだ。だから偶然ではなく、必然だった」
「えっ……?鬼はいるのですか……?」
鬼が実際にいるとは思わなかったお琴は、思わず清隆に尋ねてしまった。しかし、打出の小槌も実際にあると清隆は言っていた。鬼がいてもおかしくはないか……とお琴は思った。
「鬼はいるのだ。鬼は世の人々の業や悲しみが増えると大きくなる存在だが、反対に榛名家男子は世の人々の業や悲しみが増えると小人になる時間が多くなる。業や悲しみを負うものには鬼の姿が見え、反対に業や悲しみを負うものには、榛名家男子の小人になった時の姿は見えない。榛名家は鬼と相反する存在として、この世にいるのだ」
「え……。そうなのですか?」
「鬼が大きくなる世ということは、人間や榛名家にとっては良くない世ということ。だから、榛名家は鬼退治を仕事にしていた。祖父や父が数々の鬼を退治していた為、私達は鬼から恨まれていた。そして、鬼から打出の小槌を奪ったことにより、更に恨みを買われて……」
清隆は言葉を詰まらせた。どうしたのだろう……とお琴が心配そうな表情で清隆を見つめていると、清隆は大丈夫という返事の代わりに、お琴に向かって優しく笑った。
「私以外の榛名家の者は皆、殺された」
清隆が静かな声で言った。お琴は衝撃の言葉を受け、なんと言っていいのか分からない。
「私達は手に入れた打出の小槌を使って、常日頃から人間の姿で過ごしていた。今までは唯一、業や悲しみを負うものの中で小人の時の姿を見ることができる人間、つまり、夫婦となる人間の口づけでしか一時的に大きくなることができなかったのだが、小槌があればいつでも人間の姿でいることができると私達は喜んでいたのだ。鬼がどんどん大きくなっていることも知らずに……。そして、あの日。たまたま私は小人でいて、友の背に乗って空を飛んでいる間に父母が殺され、打出の小槌を奪い返されてしまった。私が家に戻った時には、横たわる父母と他にも榛名家の者がいないか探している2匹の鬼の姿があった。その時に鬼達が「小人になった榛名家の者は業や悲しみを持ったものには見えないと言うのだから、業や悲しみの化身である我らが探しても無駄だ。それに小槌があるのだから、好き好んで小人でいる訳がない」「打出の小槌を取り戻せたのだから、戻るぞ」と言っていたことを一度たりとも忘れたことはない……」
清隆は目を畳に伏せた。お琴は何と言っていいのか分からないまま、黙って清隆を見つめる。
「そして、気がついたのだ。鬼を退治し、宝を奪ったから榛名家は恨まれたのだと。だから、恨みの連鎖は私で断ち切り、退治ではない方法で鬼達がいなくなる方法を考えなければいけないと。……そして私は、平和な世になるために力を尽くせば、業や悲しみの化身の鬼達はいなくなるのではないか……と考えついた。だから、生き残った私の生きる目的は、鬼退治ではなく、鬼がいなくなる平和な世を作る手伝いをすることにしたのだ。それが今の榛名家の仕事になっている」
清隆は優しく笑った。お琴はなんて強い人なのだろうと思った。恨みや悲しみを鬼退治という形でなく、平和な世を作るという形で榛名家の使命を果たそうとするなんて……。そう思ったら、お琴の心の中に清隆様のお力になりたいという思いが芽生えた。
「き、清隆様。私は何かお手伝いはできないでしょうか?」
お琴は思ったことをつい口に出してしまった。
「お琴、ありがとう。では、榛名家の仕事について話をしよう」
と清隆は答えた。清隆の言葉に対して、お琴は首を縦に振る。
清隆はまた話を始めた。




