お琴と清隆
何とか足腰が動くようになったお琴は、今は奥の間に来ている。清隆に着るものを奥の間の箪笥から取ってきて欲しいと頼まれたからだ。奥の間は押し入れと箪笥と文机しかない質素な部屋だった。
「着るもの一式を持ってきてくれと言われたけれど……。さすがにこれは手に取りづらい……。どうしよう……」
箪笥を次々と開け、赤茶色の素襖と下に着る白衣を見つけたお琴は、次に見つけた褌に対して困っている。家族以外の殿方のこれを持つのは……、恥ずかしい……。いつも卯木様が洗濯をしているから、私は1度も手に取ったことがなかった……と、お琴は困ってしまった。しかし、お琴は困っているだけではだめだと思い、どうしたら良いのか考え始める。そして、
「……あ!白衣に挟んで持っていこう!」
と思いついた。お琴は白衣越しに褌を手に取り、素襖の上に乗せた。
「……こんな訳が分からない状況の上に、恥ずかしい思いをしたのだから、きちんと清隆様から説明をしてもらわないと!」
お琴はそう言って、三の間へと急いで戻っていった。
「清隆様、お待たせ致しました」
お琴は三の間の縁側の障子前で正座をし、声を掛ける。すると、
「ありがとう。手を出すから、手のところまで着替えを持ってきてくれないか?」
清隆の右手が障子のすき間から出てきた。
「は、はい。どうぞ」
お琴が着替えを差し出すと、清隆の手は素襖を掴み、障子がピシャリと閉められた。お琴が障子を見つめていると、布の擦れる音が聞こえ始めた。あ、着替えを始めたのか……と気づいたお琴は、思わず障子に背を向けた。着替えを待つ間、何か違うことを考えていよう……とお琴は思い、今日の出来事を思い出す。朝起きて、気まずい朝食を食べて、椿屋敷に来て……と朝からの出来事を次々と思い出していく。
「……それで、掃除をしていた私は小人に頭突きをされて……。あ、私……、まだ拭き掃除の途中だったんだ。仕事を終えてから、話を聞いた方がいいのかしら?でも……、気になって集中できなさそうだし……」
「出来たら今の方が私はありがたい」
着替え終えた清隆が、障子を開けて出てきた。
「今、一時的に人間の姿に戻ってしまった為、今日はいつまた小人になり、人間になるか分からなくなってしまったのだ。いつもは時間が決められているのだが、人間時に出来たら話をしたい」
清隆はそう言って、お琴の横に立つ。お琴は慌てて立ち上がる。清隆にそう言われたら、お琴は従うだけだ。
「承知しました」
「では、奥の間へ行こう」
清隆はすたすたと奥の間へと向かう。お琴は清隆の後ろに付いて行った。
「さて、座ってくれ」
奥の間に入った清隆は、お琴に座るように促した。
「失礼します」
お琴は清隆が上座になるよう、障子の前で正座をした。
「では、何から話そうかな……。まずは私の先祖のことについて話そう」
清隆はお琴を涼しげな瞳で見つめ、話し始めた。




