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おてんば娘と一寸郷士(ごうし)  作者: 宮羽つむり
おてんば娘と椿屋敷
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気になること

裁縫箱を持って土間に戻ってきたお琴。土間では卯木が主菜の魚を煮ているところだった。

「お琴、ありがとうございました」

お琴に気がついた卯木が、優しく出迎えてくれた。

「いえ、全部真成様がやって下さって……。あれ、真成様は?」

「真成は別の仕事をしに、今さっき、出ていきました。入れ違いになってしまったようですね」

「あ、そうだったんですね……」

お琴は目線を裁縫箱に移す。裁縫箱を見た卯木は、一瞬目を見開いたが、またすぐにいつもの表情に戻した。お琴は裁縫箱を見つめていたので、卯木の一瞬の顔に気づくことはなかった。

「お琴、真成の小袖の件は聞きました。右忠様が夕食をこちらで召し上がっていくことになりましたので、その時に真成には挨拶させようと思います。なので、私が直します。お琴は魚の火加減を見ていてください。あとは弱火で煮込むだけですので」

卯木はそう言って、竈の上に乗っている鍋の蓋を開けた。お琴が鍋の中を覗き込むと、いつも清隆は食べない魚が2匹煮込まれていた。鍋の中からいい匂いが広がっていく。お琴は、きっと右忠様が食べるから、清隆様は自分も食べなければいけないと思っているのかな……と思った。

「承知しました」

「では、裁縫箱をください」

「あ、はい。お願いします」

お琴は卯木に裁縫箱を手渡そうとしたが、先ほど見つけた小さな型紙のことを思い出した。裁縫箱の中に入っている小さな型紙について聞けるかな……とお琴は思い、渡すのをためらった。

「どうしたのですか?」

「あ、あの……。……いえ、何でもないです……」

明らかに挙動不審のお琴だが、卯木はお琴を静かに見つめ、

「……分かりました。では、火加減を見ていてください」

と言って、自分は使用人が座る板の上に座り、真成の小袖を直し始めた。ど、どうしよう……。変な動きだったよね……とお琴は思ったが、とりあえず魚の火加減を見ることに集中した。


しばらく人の声は聞こえず、布の擦れる音や煮物の汁がフツフツと言っている音だけが土間の中を包んだ。

「……よし。これで縫い終えたので、真成を呼びに行ってきます」

と言って、卯木が真成の小袖を持って立ち上がった。

「私が戻ってきたら、今日は帰っていいです。もう少しだけ、火加減を見て待っていてください」

「し、承知しました」

お琴が返事をすると、卯木は真成に小袖を渡しに土間から出ていった。

「……一体、どの時に聞けばいいんだろう……」

お琴はポツリ呟き、竈を見つめる。静かな空間の中で、魚を煮る音だけが響く。そろそろ火を消した方がいいかなぁ……とお琴が思ったその時、

「ありがとうございました。これでお琴は家にお帰りなさい」

と卯木が戻ってきて、お琴に向かって言った。

「あ、ありがとうございます。では、お先に失礼します」

「また明日もよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

お琴は一礼して、土間を出て行った。

小人のことについて、誰かに聞きたい……。そんな考えばかりが頭の中を巡っていて、お琴はうわの空で家に帰っていった。

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