客人について
美味しい豆大福を食べた後、お琴は卯木から「お客様がそろそろ来るので、門の前で待っていて欲しい」と頼まれた。お琴は湯のみと豆大福が置いてあった皿を洗って片付けたので、
「では、これで門の前に立って、お客様を待ちます。あの、お客様はどんな方ですか?」
と、門の前に立つ前に客人の様相を尋ねた。すると、卯木と真成が一瞬顔を曇らせた。
「うーん……。まぁ、目立つ格好で来ると思います。変わった格好の人が来たら、その方がお客様です」
と卯木。卯木の言葉を聞いた真成はうんうんと頷くが、はっと気がついた表情をした。
「あ、母上。来る方の名前を言わないと」
「あ、そうでしたね。お客様の名前は右に忠と書いて、「すけただ」様と仰るのだけれど、ご本人は名前の漢字は良くても、その呼び方に大変不服なのです。なので、「うちゅう」様とお呼びするように。その呼び方で呼べば、悪い印象は持たれませんよ」
卯木の説明を受けたお琴は、なかなかの変わり種が来るのだと思った。人の屋敷を見て、「つまらない」と言える人物なのだから、癖が強い人なのかなと想像していたのだが、まさか自分の名前にまでケチをつけるとは驚きである。お琴は出迎える程の人物なのかと疑いたくなった。そんなことを考えていると、
「……そんな怪訝な表情をして待ってはいけませんよ。笑顔でお客様を迎えてください」
と、卯木に注意されてしまった。お琴ははっと気がつき、引きつった顔を両手で押さえる。
「すみませんでした。……それでは、門のところに行ってきます」
お琴はそう言って、卯木と真成に一礼をして土間を出た。
「……笑顔で出迎えるっと」
お琴はポツリと呟いて、外の門へと向かっていった。