小休憩
「あ、卯木様。おかえりなさいませ」
門の前を掃いていた箒の手を休め、大事そうに両手で風呂敷包みを持って歩く卯木にお琴は頭を下げる。
「ただ今戻りました。門の前の掃き掃除をしてくれているのね。ありがとうございます。掃き掃除が終わったら、土間で一緒に御菓子を食べましょう」
卯木が風呂敷包みを軽く上に上げる。卯木の言葉に嬉しくなり、お琴はぱぁっと明るい表情で包みを見つめる。
「いいんですか?嬉しいです!」
「いつも頑張って奉公に来ているご褒美です。土間で使用人皆で食べましょう。私は先に土間へ行って、お客様のお茶などの準備をしています」
卯木はそう言って、門をくぐって屋敷の中へ戻っていった。
「早く掃除を終わらせようっと」
お琴は顔が緩むのを抑えながら、掃き掃除を一所懸命やった。
箒を元あった場所に戻したお琴は土間の前に着いた。
「門の前の掃き掃除、終わりました」
卯木に報告がてら、お琴は土間の中に入る。
「あ、お琴。丁度今、真成もひと息つきに来たので、御菓子を頂きましょう」
卯木はお湯を薬缶で沸かしている。土間にある使用人が座る場所を見ると、真成が白湯をすすっていた。
「真成様。清隆様の具合はどうでしたか?」
「あ、少し良くなったようなので、夕食の後に薬草を煎じて飲ませようと思います」
「少し良くなったのなら、少し安心です。あ、卯木様。私もお茶の準備を致します」
「お琴、ありがとう。気持ちだけで充分なので、手を洗ってそこに座りなさい」
卯木にそう言われたお琴は、土間の隅にある手を洗うための桶で手を洗った。卯木がお湯を急須に注ぐ。そして2人分の湯呑みに急須の茶を入れる。風呂敷で包んでいた木箱を開け、包み紙を開いて御菓子を皿に載せる。
「本来は主人より先に食べてはいけないのですが……。まだお客様がいらしてないので、今日は特別です」
卯木はそう言って、急須と2人分のお茶と皿に載った3つの豆大福をお琴と真成の前に出した。
「わぁぁ……、美味しそうですね」
お琴は目を輝かせて、豆大福を見つめる。
「鼓屋のですから、美味しいですよ」
「豆大福か……。季節の御菓子ですね」
真成も口元を緩ませる。
「お客様も喜びますね!」
お琴が卯木に向かって言うと、
「ふふっ、一番喜んでいるのはお琴ですね」
と卯木に笑われてしまった。喜んでいるお琴を見て、真成もクスッと笑う。
「!……すみません。すぐに顔に出てしまって……」
お琴は両頬を慌てて押さえて、必死で元の顔に戻す。
「さぁ、早速頂きましょう」
そう言って、卯木は3つの豆大福に1本ずつ爪楊枝を差した。1人1個ずつ豆大福を持ち、
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
と、3人は豆大福を食べ始めた。豆を混ぜ込んだ餡入りのお餅は甘さを引き立たせるために、少しの塩が餅の周りにかかっているのがお琴には分かった。
「美味しいです!卯木様、ありがとうございます」
お琴がお礼を言うと、
「私ではなく、清隆様に礼を言いなさい。使用人の分も買えるのは清隆様の計らいですので」
お茶をすすりながら、卯木が言った。
「あ、そうでしたね」
お琴はまた豆大福を1口頬張る。豆大福を食べ終えたら、また仕事を頑張ろうとお琴は思いながら、至福の時を過ごした。