屋敷の庭で
門前を箒で掃くことにしたお琴は、外に出て裏に置いてある庭掃除用の箒を持った。門に向かうため、お琴が屋敷の角を曲がろうとした時、
「わ!」
「あ!」
出会い頭に真成とぶつかりそうになってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
「いや、こちらこそ申し訳ありません……」
お互いに謝り、驚いて鼓動が速くなった心臓を静める。
「お琴は箒を持って、どこの掃除を?」
「あ、私は門の前を少し掃こうかと。真成様はどこへ?」
「あ、俺は清隆様が体調を崩しているようなので、裏に生えている薬草を採りに行くところです」
真成の言葉にお琴はえ?と驚いた。
「清隆様、具合が悪いのですか?」
「あ、昼前に土間へ向かって行くのを見かけたので……。昼前に姿をお見せになるのは具合が悪い時が多いので……」
「へぇ……。知らなかったです」
お琴の言葉を聞いた真成は、驚いた表情をしている。
「知らなかった……のですか?」
「はい……。でも、ちょっと待ってください。えっと……、清隆様が昼前に姿を見せる時は具合が悪い時が多い……。清隆様が昼前に姿を見せる時は具合が悪い時が多い……。清隆様が昼前に姿を見せる時は具合が悪い時が多い……。よし。これで覚えました。見たり聞いたりしたことは、3度復唱すれば忘れないので、もう大丈夫です!教えてくださり、ありがとうございました」
お琴はそう言って、笑った。お琴の見たり聞いたりしたことを3度復唱すれば忘れない能力は祖父から鑑定の技術を教わる時に培ったものである。鑑定の技術は文書や口伝で行われることが多かったため、お琴が忘れまいと必死で覚えようとした成果がこの能力なのだ。しかし、復唱しなければ忘れてしまうというのが欠点である。真成は突然復唱し出したお琴に一瞬驚くが、
「……では、俺は薬草を採りに行ってきます」
と言って、いつもの表情に戻して裏庭へ向かった。
「……あ、私も門の前を掃かなくちゃ!」
お琴も自分がやろうとしていたことを思い出し、門へと向かった。
清隆様、具合が悪かったのかぁ……。だから、奥の間で休むために、あんなくだけた格好をしていたのかなぁ……と、奥の間にいた清隆を思い出しながら、お琴は門前の掃き掃除を始めた。




