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おてんば娘と一寸郷士(ごうし)  作者: 宮羽つむり
おてんば娘と椿屋敷
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お琴の家

「このバカ娘!お昼の時間を過ぎてから帰ってきおって!」

葵屋と書かれた暖簾を下げている店から男の人の怒鳴り声が聞こえた。家に帰ってきたお琴は着飾ったまま、父母の前でまた正座をして、この怒鳴り声を聞いている。

「お義父さん……。お店まで声が聞こえて、お客様がびっくりしています……」

申し訳なさそうに、店と住居を繋ぐ障子を開けながら、お琴の姉の旦那で婿養子の信貞が声をかけた。薄い茶色の着物を着ている信貞はひょろっとしているので、まるで枯れ草みたいだ。

「信貞さん、ごめんなさいね。もうしばらく店番頼みます」

お琴の母・志げ乃が困ったような笑顔を浮べながら言う。志げ乃は控えめな鼻梁だが、目力がとても強い女性なので、目で「邪魔をしないように」と信貞に言っているのがお琴には分かった。

「は、はぁ……」

信貞は一礼して、また店の方へ戻っていった。

「お父さんの言う通りです。皆、忙しく働いているという中、余計な心配させて……」

志げ乃がため息をつきながら言った。お琴と一緒に縁談の席についたが、破談になったのでお琴の父・万吉と志げ乃は家に早々に帰っていったのだ。相手に会わす顔もないし、町の人々に結果を聞かれるのも嫌だったので、嫌な気持ちを仕事で発散したかったのだろう。

「ごめんなさい……。破談になった悲しみでいっぱいになってしまって……」

お琴は出ていない涙を白々しく右手で拭う。

「あんたが悲しみに打ちひしがれるタマな訳がないでしょう」

「自分で縁談をぶち壊して何を言っているんだ」

どうやら志げ乃と万吉の逆鱗に触れたようだ。2人は待ったなしに口撃してきた。お琴はちらりと万吉を見た。普段奥二重の父の目が一重になっている。これは本気で怒っている証拠だ。

「着替えてお昼を食べたら、今日は裁縫の手習いには行ってはいけない。家の仕事を手伝ってもらう」

万吉がお琴に罰を与えた。

「えぇっ!今日はお紗世ちゃんと一緒に行く約束していたのに!」

お琴は反対したが、

「何言っているの!店の皆を心配させたのだから文句を言わない!」

志げ乃の一声でもうお琴は何も言えなくなってしまった。

「お昼は居間にあるから、着替えてきなさい」

「はぁい……」

万吉に言われ、お琴はしぶしぶ自分の部屋へ向かった。

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