清隆探し
お琴は清隆を呼びに二の間、三の間、厠と他の部屋に行ったのだが、全く清隆が見つからなかった。部屋にいないのであれば、いつものように友と呼ぶ動物達に餌をやっているのかと思い、庭も見たのだが、清隆はいなかった。何度も清隆の名前を呼んでいるが、返事がないのはお琴の心配を掻き立てるには充分な状況だった。
「もしかしたら奥の間にいるのかしら……」
お琴はふと思いついた。だが、奥の間は使用人は卯木しか入らないように言われている。しかし、これだけ探しても清隆の気配すらしないのはお琴にとって不安だった。
「ちょっと見に行って、すぐ戻ればいいよね……」
お琴はそう決めると、すぐに奥の間に向かった。
「清隆様……、一の間の床の飾り付けが終わりました」
奥の間の障子の前に正座したお琴は、静かな声で呼びかけた。しかし、やはり清隆の声はしない。
「やっぱりいないのかな……」
お琴が諦めて一の間に戻ろうとした時、ボンッという何かが破裂したような音が奥の間の中からした。お琴はびっくりして一瞬固まるが、
「な、何の音かしら?……ちょっとだけ見た方がいいよね。……失礼します」
何かあってからでは遅いと思い、勇気を出して奥の間を開けた。すると、
「す、すまない。呼んでくれたのに、すぐに返事ができなくて……」
とくちなし色の素襖の上衣の裾を袴に入れない「うちかけ素襖」と呼ばれる着方をした清隆が座っていた。しかしよく見ると、上衣を肩に掛けているだけで、下に着る白衣が見えている。そしてその白衣もきちんと紐で縛っていないようで、胸元が大きく開いている状態だ。清隆はうちかけ素襖よりもくだけた着方をしていた。
「あ、清隆様の返事を待たずに開けてしまって申し訳ありません。先ほど、この部屋から何か破裂したような音がしたので、勝手に開けてしまいました……」
両手をつき、頭を下げるお琴。申し訳ない気持ちはもちろんあるが、清隆のくだけた着方があまりにも色っぽいので直視できなかったのだ。
「そうだったのか。何の音だろうか……。私は気がつかなかったな。それよりも飾り付けは終わったのか?」
「は、はい。終わりました。清隆様にも見て頂きたくて……」
「分かった。では、きちんと身支度をしてから一の間に向かうから、先に行っておくれ」
清隆にそう言われたお琴は頭を下げたまま、
「はい」
と返事をして、そのまま清隆と目を合わせずに奥の間から出ていった。
もし目が合えば、お琴以上に顔を赤くしている清隆に気がつくことかできたのに……。お琴は気がつかないまま、一の間へと戻っていった。