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おてんば娘と一寸郷士(ごうし)  作者: 宮羽つむり
おてんば娘と椿屋敷
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華道

「花器はこれで良いでしょう」

内蔵からお琴が持ってきた鉄色の筒状の細長い花器と薄茶色の花台を見て、卯木がつぶやいた。花器の上は円周状に七つの穴が空いた丸い蓋がしてある。その穴に花を挿せばいいようになっているのだ。

「四季折々の自然を花瓶の中で表現し、また、それを鑑賞するのが華道です。生けるのに様式美がありますが、今日は様式に関係なく、秋を花瓶の中で表現しましょう。自分の好きなように表現なさい」

卯木の言葉をお琴は自分の中で咀嚼する。

「……ということは、好きなように庭から秋の花や草木を取ってきていいということですか?」

「そういうことです。この剪定鋏を持って庭に行きなさい」

「ありがとうございます。では、いってきます」

卯木から剪定鋏を渡されたお琴はお礼を言って受け取り、庭へ出ていった。

「今の時期だと何がいいかしら?」

草花を選ぶ直感には自信があるが、草花を生ける感性に自信がないお琴はどんな草花を切ればいいのか迷ってしまう。

「……とりあえず裏へ行こう」

お琴は椿屋敷の裏庭へ向かった。


椿屋敷の裏庭は畑もあるが、季節の様々な草花を食用として育てている。しかし、食用の草花だけでなく、野花もあるのだが……。

「あ、柊木犀(ひいらぎもくせい)がある」

生け垣の椿だけでなく、他の木も屋敷にあることにお琴は気がついた。柊木犀は木犀のような白い花をつけ、良い香りを出している。その可愛らしい立ちずまいに惹かれたお琴は、

「ごめんなさい、切らせてね」

と言って、柊木犀の枝を2本切った。葉の淵には柊のような棘があり、触ると痛いのでお琴は気をつけて持った。

「……。次はっと」

お琴は少し陰っている場所を見つけた。そこに吾亦紅(われもこう)が咲いていた。吾亦紅は赤い俵型の花穂(かすい)をつけて佇んでいる。ひっそりとしている姿に惹かれ、お琴は吾亦紅を2本切った。

「よし、次は……」

お琴は裏でも太陽が当たって日向になっている場所に咲いている柚香菊(ゆうがぎく)を見つけた。白い花をつけて咲いている柚香菊に近づき、お琴は葉を1枚、摘んで揉んだ。

「あ、やっぱり柚子の香りがする……」

名の由来通り、葉を揉むと柚子の香りがするのを楽しんだお琴は、柚香菊も2本切った。

「細長い花瓶だから、あまりたくさんは切れないのよね。次で最後にしよう」

お琴は左手で持っている草花を傷つけないよう、気をつけながら持っている。

「あ、これにしよう」

お琴は柚香菊の近くに竜胆(りんどう)を見つけた。葉の脇に2個の青い花をつけている竜胆を1本切って、お琴は屋敷へ戻っていった。



「ただ今、戻りました」

お琴は声をかけて、一の間の障子を開けた。一の間には床に向かって座っている卯木がいた。

「よかった、見つけられたようですね。それでは、早速生けましょう」

卯木は床に置いてあった花器を畳の上に、花台を花器の右側に置き、その前にお琴が座るよう促した。

「し、失礼します」

お琴は左手で持っている草花を花台の上に置き、早速草花を生けることにした。自信はないが、精いっぱい清隆様の役に立ちたいと思い、一所懸命花器と草花と向き合うお琴。そして深呼吸をし、草花を挿し始めた。

七つの穴が空いている花器の1番手前から竜胆を挿し、その両隣には柊木犀、柊木犀の隣は柚香菊、柚香菊の後ろにひっそりと吾亦紅を挿した。

「こ、これでどうでしょうか……」

お琴はおどおどしながら、卯木に尋ねた。

「お琴はどのような気持ちで挿したのですか?」

逆に卯木に尋ねられてしまったお琴は、更におどおどしてしまうが、

「あ、その、えっと……。清隆様の役に立ちたいと思って挿しました」

この気持ちに嘘はない。そう思ったお琴は卯木の目を見つめ、答えた。卯木はそんなお琴を見て、優しく笑う。

「清隆様のため、は巡り巡って客人のためになりますね。よろしいです。飾りましょう」

卯木はそう言って、お琴が挿した花器を床に飾った。その瞬間、床の世界が白黒だけでなく、彩りが入って明るくなった。

「きっと清隆様も喜ぶでしょう。お琴。清隆様を呼んできてください」

「はい、承知しました」

卯木に言われ、お琴は清隆を呼ぶため、一の間を出ていった。

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