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おてんば娘と一寸郷士(ごうし)  作者: 宮羽つむり
おてんば娘と椿屋敷
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お琴の部屋で

「ただいま」

自分の家に帰ってきたお琴は静かに自分の部屋に入った。真成はお琴の家まで送ると言い張ったが、お琴は申し訳ない気持ちと恥ずかしい気持ちがあり、気持ちはありがたいが家の近くで別れて欲しいと言い張った。しばらく自分の主張をお互いに言い張った結果、家の近くで別れるけれど、お琴が家の中に入るまでその場で真成が見守るという形に落ち着いた。お琴が家の中に入る前に最後、真成に向かって一礼をすると、真成はにっこり微笑んで返礼をした。それでお琴は家の中に入ったのである。

「真成様に図々しいお願いをしてしまったけど……、恥ずかしいからなぁ……」

お琴は真成との帰り道を思い出し、畳の上でゴロゴロしている。すると部屋の障子が開く音がして、

「!!あんた帰ってきていたのっ?夕食作りまでやってくる話じゃなかったんかい?」

と志げ乃がものすごく驚いた表情で立っていた。気まずさがあるのか、志げ乃の目が泳いでいる。お琴は志げ乃の表情を見て、何をしに自分の部屋に来たのかすぐに分かった。お琴はすぐに起き上がり、

「おじい様の『名品真贋見極方指南書』を探しに来たの?」

と志げ乃に尋ねた。

「あんたは親が自分の子どもの部屋に入ることをおかしいと思うんかい?ちゃんと掃除をしてあるかどうか確かめに来ただけよ」

志げ乃の言い分にも一理あるが、お琴は親の言い分と自分の直感どちらを信じると言われたら、迷わず自分の直感を信じる。それだけお琴と家族の心の間には溝があるし、万歳から「お前は鑑定する時に必要な直感が特に鋭い。だから自分の直感は信じていいぞ」と言われていたのもあるからだ。だが、ここは穏便に済ませた方が都合がいいとお琴は判断した。

「疑っちゃってごめんなさい」

「……本当だよっ。疑ってお互いが嫌な気持ちになるんだから、さっさとおじい様の指南書をこちらに渡してくれれば良いのに!……夕食ができたら呼びにまた来るわ」

お琴の謝罪を受けた志げ乃は捨て台詞を吐いて、お琴の部屋から出ていった。

「渡せっこないでしょ……。肌身離さず持つように言われているんだもん……」

お琴はまた畳の上に寝転がった。

お琴は実の家族とあまり仲がよくない。それはお琴の生まれた時からの環境が原因だ。お琴の家は商家のため、跡継ぎとなる男子が欲しかった。だが、なかなか子宝に恵まれず、やっと生まれたのが姉のお初。そして最後の子として生まれたのがお琴だった。お琴が生まれた時の両親の落胆は大きかった。志げ乃に至っては男子でないお琴を育てることを拒否した。志げ乃と赤ん坊のお琴、お互いのために万吉はお琴を自分の父・万歳の家に預けることにした。万歳はお琴の境遇を不憫に思い、自分の代で終わらせるつもりであった名品鑑定家の跡継ぎとして、お琴に鑑定の知識や技術の全てを叩き込ませた。普段は無口な万歳だが、厳しくも愛ある教えを通して、お琴は万歳の愛情を感じていた。そしてお琴が14の時に万歳が亡くなり、お琴は実の家族の所に戻ることになった。だがそれは、家族はお琴から万歳の『名品真贋見極方指南書』を貰うためだったのだ。指南書の在り処ばかりを尋ねるばかりの家族に対して、指南書を渡さず、自分が店番をする時のみ鑑定の知識や技術を使うことをお琴は頑なに望んだ。本当は祖父との思い出の鑑定の知識や技術を商売に繋げたくなかったのだが、こうでも言わないと家に置いてもらえないと思ったのだ。お琴の考え通りに、家族は仕方なく店番としてお琴を家に置くことにした。お琴は指南書ではなく、自分に興味を持って欲しかった。だからお琴は家族に構って欲しくて、わざとおてんばなことをして家族を困らせた。そんなお琴に家族は手を焼いてしまい、縁談をさせ、お琴を家から出すように仕向け始めた。お琴には家族の考えがよく分かっていた。万歳はよく「鑑定家の知識や技術を持っているからお前が必要だという者ではなく、お前自身を必要としている者のところに行きなさい」とお琴に言ってくれた。だからお琴は、いつかこの家から出ていくつもりでいる。なるべく早いうちに。


「……私、通い奉公ではなくて住み込みの方がいいのかもしれない……」

そんな思いがお琴の中によぎった。椿屋敷は私を必要としているとお琴は信じたい気持ちでいっぱいだった。

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