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おてんば娘と一寸郷士(ごうし)  作者: 宮羽つむり
おてんば娘と椿屋敷
136/137

燈籠揃前の神社

夜がどんどん近付いている神社は、参道が松明に照らされないと見えない位、深く濃い闇に包まれていた。

参道のすぐ脇に一定の間隔で置かれた松明が、神社やお琴達を照り示してくれる。

社の前には沢山の松明が置かれ、昼間とは違う雰囲気で建っているように見えた。

「お待ちしておりました」

中門の下で作業をしていた長助がこちらへ駆け寄ってきた。

「さ、こちらへどうぞ」

長助は3人を社の方へ誘う。長助の後に続いて歩く3人。

あっという間に社へたどり着いた。

「上へ上がって下さい」

長助は手で社の階段を指した。

階段の上を見ると、賽銭箱とお参りの時に鳴らす鈴の代わりに3脚の膳が並べられてあった。

その膳の所へ座れという事なのだろう。

「そんな……!私達はただやるべき事をしただけですので……」

右忠がしずしずと口元に手を当てながら言う。

松明に照らされた右忠をお琴はとても美しいと思った。

松明の火に照らされている部分と影になっている部分が、右忠の神々しさと儚さを表しているようだ。

今しかここに現れる事しか出来ない天女と錯覚してしまいそうだった。

「……ですが、右京様。折角のご厚意を受けなければ、それこそ神様から罰当たりといわれてしまいます」

清隆はいたずらっぽく笑って言った。

一瞬、右忠は目をぱちくりさせて清隆を見るが、

「それもそうね」

クスリと笑って、清隆の意見に同意した。

声を掛ける機会を窺っていた長助は、すぐさま「さぁ、是非」と階段を上がるように勧める。

「ありがとうございます。では、失礼します」

右忠は階段の下で草履を脱ぐと、ゆっくり階段を上がっていった。

「真ん中はお琴ね。何て言ったって神の使いなんだから」

右忠は膳の前に立つと、後ろを振り返りながら言う。

突然の座席の指名に驚いたお琴は、口を何度も開けるが声が出ない。

そんなお琴に気が付かない清隆は、

「そうですね。お琴が真ん中でないと、村人達は納得しないでしょう」

と呑気に右忠に同意する。

右忠はお琴から見て左端の膳に腰を下ろすと、

「ほら。清隆もお琴も来なさいよ」

と2人に向かって手招きをした。

「お琴、私達も行こう」

清隆は爽やかに笑ってお琴を誘う。

誘われて更に胸が高鳴るお琴は深呼吸して、

「あ、でも、使用人である私が真ん中の膳に座るのはいかがなものかと……」

と自分の意見を述べる。

意見を述べる立場ではない事は重々承知だが、思い直してくれるかも……と期待を込める。

しかし、清隆はむすっとした顔だ。

「も、申し訳ありませんっ。意見を言うなんて出過ぎた真似を……」

お琴は清隆から目を反らして、急いで謝った。

清隆はむすっとしてる上に、眉間にしわを寄せてお琴を見ている。

更に険しい表情の清隆に、お琴は何を謝れば良いのか検討がつかない。

「……そういう事ではなくてな……」

清隆はうぅん……と唸っていたが、

「ほら、行くぞ」

しびれを切らして、お琴の右手を引いて階段の方へ向かっていった。

突然の清隆の行動に、頭の考えが追い付かないお琴。

一瞬で謝るべき事の見当が消し飛んでしまった。

「えっ、えっ、えっ?」

清隆に掴まれている右手を中心に、全身が熱を帯びていく。

清隆もきっとお琴の熱を感じているだろう。

汗で濡れてきそうな右手。

恥ずかしくて手を離して欲しいが、清隆から離す気配は一向に感じられない。

そのまま階段を上がっていくお琴と清隆。

階段を上がりきると、

「さ、お琴はここへ」

清隆はお琴の手を引いたまま、お琴を真ん中の膳に座らせた。

その瞬間、引かれた右手から真ん中の膳に座らされた事に意識が入った。

「あ、清隆様……」

と清隆に話しかけるが、清隆は笑顔で空いている膳の前に座っている。

その笑顔はまるで作戦成功と言わんばかりだ。

もしかして謀られた……?と、今度はもやもやした気持ちがお琴の心の中をいっぱいにした。


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