女子?の集い
「わぁぁぁ……!お琴ちゃん、すんごく可愛いわぁ!」
右忠の部屋にやって来たお信は、お琴を見るなり黄色い声を上げた。
お琴は思った以上のお信の興奮気味の態度に驚きつつも照れてしまう。
お信はお琴の近くに寄ると、小袖に皺がつかないように両足の脛に手を当て正座した。
「やっぱり女の子はこういう楽しみがあるから良いわねぇ」
お信はとても嬉しそうにお琴をまじまじと見つめる。
「これで灯籠揃に行くのよね?折角可愛くなっているのだから、小袖も可愛いのにしましょうよ。あ、そうだわ。お琴ちゃんに良いのをあげる。ちょっと待ってて」
1人でしゃべっていたお信は、さっと立ち上がると部屋を出ていってしまった。
突然訪れる静寂。
少しもの寂しく感じるお琴。
すぐ傍にいる右忠に話し掛けた。
「右京様、もう少し私はここにいても良いでしょうか?」
「良いわよ。私はちょっと外で顔を洗ってくるわ。丁度外が良い暗さになってきたから」
そう言うと、右忠も部屋を出ていってしまった。
右忠も準備をしなければならないから……と割り切るお琴だが、
「……何にも音が聞こえないのはもの寂しいなぁ……」
1人になったらもっと寂しく感じてしまう。
仕方ないのでお琴はお信が戻ってくるまで、今度は右忠の部屋の様子を見て待つ事にした。
「お待たせ、お琴ちゃん」
右忠の部屋に戻ってきたお信は、笑みを浮かべてお琴の傍にやって来た。
お信は大事そうに抱えている小袖をそっとお琴の前に差し出した。
桃色の生地に小さい白い花の柄が沢山散りばめられた小袖を見て、
「可愛いですねぇ……」
思わず感嘆のため息をついてしまった。
「これね、私の若い時に着たものなの。これを着て、初めて主人と灯籠揃を見に行ったのよ」
お信は懐かしそうに顔を赤らめて話す。
きっと嫁いで始めての灯籠揃だったのだろう。
「これを着て、灯籠揃に参加して頂戴」
「えっ!?」
お琴はお信と小袖を交互に見る。
「そんな大事なものを私が着て良いのですか……?」
「もちろん!着て欲しいから持ってきたの。息子達は着れないって分かっているのに、いつまでも……ね」
躊躇うお琴にお信は笑顔で小袖を着るよう後押しをする。
こんな可愛くて良い物を着るなんて……と思っていたお琴だが、やはり年頃の女の子。
着てみたい欲求は心の奥底に潜んでいた。
「い、良いんですか?」
お琴の目は期待に輝いている。
お琴の食い付きに満足したお信はキラキラした目で、
「もちろん!どうぞ」
と言って、お琴に小袖を渡した。
小袖を手に取った瞬間、お琴の心の中から着たいという欲求がどんどん湧いてきた。
似合うかどうかは別問題だが、ちょっとだけ当ててみよう。
お琴は立ち上がると、小袖を広げて自分の体に当ててみた。
「あら。丈は丁度良いわね。もう着たら?」
お信はお琴に強めに勧めてきた。わくわくしているように見える。
お信の気持ちの高揚に段々感化されたお琴は、
「そうですね。着てみます」
と言って、着ている小袖を脱ごうと手にかけた。
その時、
「着替えは自分の部屋でやって頂戴な」
と開いている部屋の戸に寄りかかっている右忠に声を掛けられた。
「私もここで準備したいから。どうしても見せたいなら、別に構わないけど」
あっけらかんと言う右忠に一瞬呆気にとられたお琴。
しかし言っている意味を分かり始めると、恥ずかしさが込み上げてきた。
右忠は男だ。ここで自分が着替えるのはまずい。
「も、申し訳ありませんっ。今すぐ自分の部屋に戻りますっ!」
お琴は脱兎の如く右忠の部屋を出ていくと、自分の部屋に勢いよく戻っていった。