お化粧で変身
右忠の部屋はかしましいとしか言い様がなかった。
「右京様、これは?」
「これはね……」
化粧箱の中を覗き込んでは、化粧道具の名称や使い方を尋ねるお琴。
右忠は嫌な顔ひとつせずに、微笑んで応える。
「じゃあ、お琴。ここに座って」
お琴を鏡の前に座らせる右忠。
お琴は鏡の中の自分と目が合うと、つい目を反らしたくなる。
「ちゃんと今の自分を見て。ここからうんと変わるんだから」
化粧箱から道具を出している右忠から注意を受ける。
鏡の中のお琴は重たそうな一重瞼、控えめ鼻梁。
どう変わるのだろうか。
元が元だから期待してはいけないと分かっているが、やはり期待している自分がいる。
「まずは白粉をつけていくわよ。これでそばかすは一気に消えるから」
右忠は白粉をつけた布をお琴の頬に優しく当てていく。
お琴は目を閉じて、なるべく息を吸わないように細く長く息を吐いていく。
「……目を開けて良いわよ」
お琴はゆっくりと目を開けた。
鏡の中のお琴は肌が白くなっただけなのに、目鼻立ちがさっきよりはっきりした気がする。
「うわぁぁぁ……!」
お琴は感嘆の声をあげる。
右忠はにっこり笑って、
「こんなの序の口。さ、どんどんいくわよぉ」
目を輝かせて、次の化粧道具を手に持った。
「お、お願いしますっ」
お琴は高揚する気持ちを抑えきれず、力強く右忠にお願いする。
鏡の中のお琴はほんのり頬を紅潮させて、次の化粧を待っていた。
「……うん。出来た!」
満足げに頷く右忠と鏡越しに目が合う。
お琴は変わりすぎている自分に驚いてしまう。
鏡の自分は先程の自分とは違う、目鼻立ちがはっきりした顔があった。
美人とまではいかないが、自信を持った表情でお琴を見返す鏡の中のお琴。
ついまじまじと見つめてしまう。
「可愛いさというのは、共感して貰う事でもっと増えるのよ。私、お信さんを呼んでくるわ」
お琴の返事も聞かず、右忠は部屋を出ていってしまった。
お琴は仕方ないので、右忠を待つという口実でもう少し鏡の中の自分を見る事にした。