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おてんば娘と一寸郷士(ごうし)  作者: 宮羽つむり
おてんば娘と椿屋敷
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合流

神社の裏は薄暗く、表の賑やかな声が遮断されているかのようだった。人を寄せつけない雰囲気に、1歩踏み出すのを躊躇ってしまう。

「あそこにいるのは私の娘達でございます」

神主が手の平で指す先を見ると、美寿々が巫女服を着た女の人と一緒にるのが見えた。美寿々は右手を握り拳にして、右から左へと何度も水平に振っている。

その動きを見る度に女の人は首を横に振るので、美寿々はひたすら同じ動きをする。

「一体何をしているのですか?」

神主が怖くて、横にいる右忠にそっと尋ねる。

「うーん……。多分、神楽鈴を持っているつもりで動いているのだと思うけど……」

「神楽鈴?」

お琴の知らない言葉がまた出てきた。自分が知っていれば、どんどん話が広がっていくのに、話を止めてしまって申し訳なく思う。

「神楽鈴とはたくさん……といっとも、上から七・五・三と山のように鈴がついた棒のことよ。神を呼ぶ道具とされているの」

「軽々しく扱って良いものではないので、練習中は鈴を持っておりません。鈴の音は明日の楽しみにしてください」

淡々と神主も会話に加わる。

神主が加わり、この場で話をするのは苦手だと思ったお琴は、美寿々の様子を見る。

美寿々は真剣な眼差しで指導役の女性の話を聞いているところだった。これだけ集中していれば、お琴が来ている事には気が付かないだろう。

川辺で会う時と随分印象が違うとお琴は思った。ここで抑えられている分、川辺の時は弾けてしまうのかもしれない。どこかの小さくなる人と一緒だ。

「あの神楽舞を指導しているお方は?」

ふと耳に入ってきた右忠の声。会話に加わらなくても話は聞きたいお琴は、右忠と神主の会話に聞き耳を立てる。

「あれは美寿々……、神楽舞を練習している娘の姉の美並(みなみ)でございます。遠方へ嫁ぐ事が決まりましたので、妹に舞を伝授しているのです」

美寿々の姉と聞いたら、ついまじまじと指南役の女性を見てしまった。

重たそうな一重瞼だが、鋭い眼光で美寿々の動きを見ている美並。圧を感じさせるその佇まいは美寿々よりも神主に似ているとお琴は思った。

美寿々の足の運び、手の先の動きを何も言わずに見つめている美並の重圧を必死に耐えている美寿々を尊敬の眼差しで見つめていると、

「……そろそろ鳥居の方へ行きましょうか」

と右忠がぽそりと呟いた。お琴が「えっ?」と聞き返すと、

「……清隆が待っているといけないから」

神主に聞こえないように右忠は答えた。

お琴は小さく頷くと、どうやってこの場を立ち去るのか右忠の指示を待つことにする。

「神主様。神楽舞の練習を見せて下さり、ありがとうございました。練習の邪魔になってはいけないので、私達はこれで今度は神社の中を見せて頂きます。

この神社jのつくりも記録したいので」

右忠はにっこり笑って来た道を歩き始めようとした。

神主は一瞬呆気にとられたが、

「あ、ではご案内致します」

と慌てて右忠の前に出る。右忠は足を止め、「あら、そんな……」と断るが、

「せめて社のところまででも……」

神主は食い下がってきた。

お琴は一体何の為に?と神主の行動に疑問を持つが、右忠は特段気にしているようではなかった。

「……ありがとうございます。では社までお願い致します」

右忠がにっこり笑うと、神主は右忠に一礼をして前に立つと歩き始めた。右忠は静静と神主の後に続く。

お琴はきっと気付いていないだろうけど……と思いながら、美寿々と美並に一礼をする。

2人はやはりお琴に気付いていないようだ。一心に舞の練習をしている。お琴はそんな2人に背を向けると、右忠の後を歩き始めた。


「……さてと。神主を撒いたし、神社にいる人達を把握しながら清隆を待ちましょう」

右忠は中門の柱に寄りかかって小休止している。

神主は右忠に家に上がるように強く勧めたが、右忠が頑なに断ったので、諦めて家の中に入っていったところだ。

お琴は中門の端に立って、太陽の位置を確認した。当然だが、太陽はお琴が神社に来た時よりも高く空へ昇っていた。

無事に清隆様がここへ戻ってきますように……。願う事以外何もできない自分がもどかしい。

鳥居の下には多くの村人が集まってきていた。右忠は頷きながら鳥居の方を見ている。誰がどこの何者なのか知っているかのようだ。

右忠に感心しながら村人達をよく見ると、大人達はお湯を回し飲みしていた。祭の準備が一段落した労いのつもりなのだろうが、

お琴には今も1人で黙々と作業をしている長助への当てつけのように見えた。長助への仕打ちに対して何も思わない村人達に怒りを感じた。

こんな祭なんて成功しなきゃいいのに……と悪態をついていると、

「待たせたな」

と突然聞こえた小さな声。「え?」と思わず聞き返し足元を見ると、息を切らせた清隆がお琴の草履の鼻緒の先に手をかけていた。

「え?清隆?」

周りをきょろきょろ見回す右忠。

かなり小さい声だったのに、すぐに反応できる右忠はやはりただ者ではないとお琴は感心する。

「清隆様、私の手の上へ」

しゃがんで清隆の前に丸く合わせた両手の平を出す。

清隆はちょこんとお琴の指先に腰をかけると、足の裏についた埃や土を払った。そして足の裏を綺麗にしてからお琴の手の平の上へ上がっていった。

お琴は清隆が乗っている両手を右忠の前に差し出す。

「ここに清隆様がいます」

お琴に言われ、右忠は手の平の上にいる清隆をまじまじと見るが、静かに首を横に振った。

「私が見えれば、少しは清隆の負担が減るのに……」

「右忠様、今は早く宿へ戻って下さい。そろそろ私が元に戻る時間になりますし、一刻も早く伝えねばならぬ事があるのです!」

清隆はまくし立てるように一気に話す。顔が紅潮している。ただ事ではないとお琴は察した。

清隆の尋常ではない様子を感じ取った右忠は頷くと、

「分かったわ。でも私はこの役人の格好だから、早く歩くには限界があるわ。だからお琴は先に走って宿へ戻って」

右忠の指示に頷くお琴。そして手の平から左肩に清隆yを移動させると、そのまま鳥居に向かって勢いよく走り出した。

「おう、参拝客か」

「村のもんじゃねえな」

村人達の言葉に対してわざと聞こえないふりをしながら、お琴は神社をあとにした。


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