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おてんば娘と一寸郷士(ごうし)  作者: 宮羽つむり
おてんば娘と椿屋敷
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神社へ行く準備

次の日の朝。清隆に握り飯の米粒を渡し、右忠に残りを渡したお琴は、部屋に戻って寿言に出会った時の応対を頭の中で想像していた。すると、

「お琴、開けても良いかしら?」

障子の向こうから右忠の声が聞こえた。その声で一旦頭の中で考えるのを止める。

「今、開けますね」

返事をして、ゆっくり障子を開けた。迎え入れて貰った右忠は、一歩だけお琴に歩み寄る。

「そろそろ行こうと思うのだけれど、先にお琴と清隆で行って貰えないかしら?」

向かい合う右忠の姿は役人女性だった。役人として行くのであれば、一緒でも良いのでは……と、ふと思う。

「きっと私と一緒にいれば、寿言は警戒して近付いてこないでしょ。それだと困るのよね。寿言からも聞き出したいし。お琴に寿言を煽って欲しいのよ。私は後から来るから」

笑顔で言う右忠を見て、そういうことか……と納得する。確かに寿言は自分1人の時だけ強気だし、口を滑らしやすい。正直嫌な気持ちもあるが、後から右忠が来るし、清隆も一緒なので1人ではない。それなら冷静に寿言の意に反する対応することができる気がする。

「承知しました。では清隆様と先に神社へ行って参ります」

自信を持って答えるお琴に、右忠は安心した表情を浮かべる。

「じゃあ、先陣を頼んだわ。私は頃合いを計って神社に行くから、また神社で会いましょう」

右忠は障子を閉めると、遠ざかっていく足音が聞こえた。そのまま外へ出ていってしまったのだろう。

お琴は立ち上がり、清隆の部屋に行くことにした。

「失礼します」

清隆の返事を待たず、部屋の障子を開ける。すると清隆は部屋の中でぴょんぴょん飛び跳ねていた。しかし、お琴の存在に気が付くと、静かに動くのを止めた。

「……い、今、どんな事が起きても対応できるように体を慣らしていたのだっ」

清隆は目を反らしながら言い訳をする。

だれも聞いていないのに、恥ずかしがっている清隆を見て、張っていた気がいい意味で少し緩んだ。

「あ、そうだったのですね。あの、私も支度が出来ましたので、一緒に神社へ向かいましょう」

お琴は清隆の行動には何も触れず、清隆が自分の肩に乗りやすいようにその場で正座をした。

「そうだな。では肩を借りるぞ」

お琴の肩に清隆が飛び乗った。

清隆が肩の上に座ったのを確認すると、お琴はゆっくり立ち上がって部屋を出た。清隆様が傍に居てくれるから、私は大丈夫……と自分に言い聞かせながら、宿を出ていく。

「オイラがいるから、安心してくれ。有事の際は必ず助ける」

肩から聞こえた清隆の声は、自分の歩みの一助になっていることに感謝する。お琴は勇気を持って、神社へと歩み進んでいった。

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