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おてんば娘と一寸郷士(ごうし)  作者: 宮羽つむり
おてんば娘と椿屋敷
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反郷士派の動き

お琴達が茶屋の中に入ると、お信と勇作は「ごゆっくり」と言って、戸を占めて外へ出ていった。おそらく昨日と同じで人避けをしに行ったのだろう。

左隅の小上がりに、お琴達の膳が並べられてあるのを見つける。右忠と清隆に続いて、お琴も小上がりへ上がる。3人がそれぞれの膳に座ったところで、

「では早速いただきましょう」

右忠は手を合わせると、小鉢を持って食べ始めた。いつもより早く食べている気がするので、よっぽどお腹が空いていたのだろう。清隆とお琴も手を合わせた後、昼食を食べ始めた。

静かなのでいつ話をするのだろうと思いながら右忠を見ると、小鉢を一心不乱に食べている。まだかな……と思っていたが、食べ終えた小鉢を膳の上に置いた右忠が、

「……色んな人に話を聞いている中で「弟行方不明に関わらず、郷士の悪い噂を率先して流しているのは神主と反郷士派だ」という話を聞いたのだけれど、神主の様子はどうだった?」

と尋ねてきた。その言葉を聞いた清隆は、箸を置いて、お琴に向かって斜めに構えていた体を右忠の方へ向ける。話す体勢に入ったのがすぐに分かった。お琴も耳を傾ける。

「神社は祭の準備で忙しいので、静かな郷士の家が羨ましいのか、口を開けば今の郷士の悪口ばかりでした。「何であいつが郷士になったのだろう」とか、「あんな静かで祭の準備は進んでいるのか」とか……。郷士の話になると、その度に「あいつが周助様を殺したに決まっている!」と騒いだり、「郷士の権限を全て神社に渡せば済むのに」と言っている者達がいました。その者達の話を聞くに、どうやらその者達は長助殿ではなく、周助殿を推しているようでした」

清隆の報告を聞いて、お琴は長助の言葉を思い出した。

「そういえば、長助様が反郷士派は元々周助様に跡を継いで欲しいと思っていた人達だと仰っていました。神社側と手を組んで勢力が拡大したとも……」

伝えたいことを一気に伝えきったお琴は息を整える。2人の反応を窺うと、2人とも少し考え込んでいた。どちらが先に話すかな……と、2人の様子を見る。

先に口を開いたのは右忠だった。

「……ちょっと待って。何で神主側と反郷士派が手を組むの?そこが手を組んで何の利点があるの?郷士はその事について何か言っていなかった?」

右忠もお琴に負けない位一気に尋ねてきた。お琴は一所懸命長助とのやり取りを思い出すが、

「……申し訳ありません。その事については何も言っていなかったと思います」

と首を横に振る。

「でも確かに右京様の仰る通り、ただ長助殿を追い込む為だけに神主側と反郷士派が手を組んだとは考えにくいですね。双方の利害は何が一致したのだろうか……」

口を閉ざしていた清隆も右忠の疑問に納得している。

「そうね……。権力を自分一点に集中させたい神主と、弟に郷士を継いで欲しい村人達の一致する利害って本当に何かしら?それを知る為にも、もう少し神主と神主の周辺を探ってみる必要があるわね」

清隆の問に頷きながら応える右忠。次の行動が決まった2人の顔が先程と違って晴れやかになったことに気づく。あとは清隆様と右忠様がまとめてくれると安心したお琴はまた箸を持つ。

「神主と神社関係者、反郷士派について調べなきゃいけないとなると、またお琴には神主の娘から話を聞いて貰わなければいけないな」

「小さい清隆と柴売りの私は神社、又は神社周辺で聞き耳を立てて、元に戻った清隆と役人女性の私は直接神主に話を聞きに行く。ま、それは祭についてだけど、神主との接触を図るという意味でやらなければね」

「今後の動向としては、それが一番得策だと思います」

「では昼食を食べ終えたら、私達は神社に行くわよ」

右忠と清隆はどんどん話を進めていく。

「わ、私はまた川辺で美寿々様をお待ちします」

お琴も自分がした方が良いと思うことを2人に伝える。

「お琴。今時点では神主側を調べる事に重きを置いているけれど、郷士の方も調べるのも続けたいの。だから、時間が出来たら引き続き郷士の祭の準備の手伝いもして欲しいわ。郷士と神主側の両方を調べるのは気を遣って大変だろうけど、お願い」

右忠はお琴の方に体を向けたかと思うと、突然頭を下げた。忘れがちだが、右忠は一国の主の弟君だ。一町娘にする行動ではないので、びっくりして戸惑ってしまう。

「わ、私にできることは精いっぱいやらせて頂きます!そ、そのように頭を下げないで下さい!」

「……ふふ。お琴は優しいのね。ありがとう」

右忠は頭を上げると、目尻を下げて笑う。つられてお琴も笑う。右忠とお琴、互いが微笑んでいるのを見ていた清隆は、

「さ。早く昼食を食べて、活動に移りましょう」

と良い感じの雰囲気を切り裂くように淡々と言って、昼食を食べ始めた。清隆の言葉に確かに……と思ったお琴は、急いで昼食を食べ始める。しかし、右忠は箸を持たずに苦笑いしながら、清隆を暫く見つめていた。

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