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おてんば娘と一寸郷士(ごうし)  作者: 宮羽つむり
おてんば娘と椿屋敷
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少女と小人

ときは戦国時代。武将達が我先に天下を取ろうと動いている中、自国を守ることを第一としている国があった。

そんな領主が治めている地に住む榛名(はるな)氏という郷士(ごうし)がいた。郷士とは武士の身分のままで農地を与えられ、普段は農業に従事し、有事の際は戦う武士のことである。榛名氏は椿の生け垣に囲まれた大きな平屋に住んでいる。周囲の人々から「椿屋敷」と呼ばれているその屋敷には齢18の跡取り息子とごく限られた使用人しか住んでいないという。

もうじきお昼の時間。町の人々は活気にあふれているが、椿屋敷は相変わらず静かである。そんな椿屋敷の前を大股でカッカと怒りながら歩く美しく着飾った少女。珊瑚で作られた赤の(かんざし)に薄桃色の着物。華やかな格好なのに、少女は顔を化粧で隠しきれないくらいに真っ赤にしている。

彼女の名はお琴。齢16の商家の娘なので、縁談話が尽きない。お琴は今日も縁談をしたのだか、うまくまとまらなかった。今はせっかく着飾った自分を元の質素な町娘に戻したくないので、少し寄り道をしている最中である。

「人のところを「顔も体も凹凸のない娘」って事実を先に言ったのは向こうでしょ!だから私は「嫁ぐということは一生のことなので妥協したくない」って正直に言っただけなのに、なんで私が怒られなきゃいけないのよ!」

お琴は縁談を断られた理由に納得がいかず、イライラしていた。すると、

「そんな気の強い娘は誰だって願い下げだよ。相手の男は賢明な判断をしたってもんだね」

どこからか声が聞こえてきた。

「誰っ!」

お琴は目をとがらせ、周りを見渡すが誰もいない。

「気のせいかな……」

怒りすぎているから、聞こえない声が聞こえたのかもしれない……とお琴は思い、また歩きだそうとした時、

「痛っ!」

お琴は頭を抑えた。頭に何か当たったのである。下を見ると、どんぐりが落ちていた。ちょうど簪のところに当たって、簪が頭に軽くだが刺さったようだ。近くにクヌギの木などない。

「なんでどんぐりが……?」

お琴が不思議がっていると、

「どんぐりみたいに先はとがっていてもいいけれど、あとは丸い方が可愛げがあるっていう、オイラからのありがたい言葉だと思いな」

今度もはっきり声が聞こえた。お琴はカーッとなり、一言言い返さないと!と思い、周りを見回した。しかし、すぐには言葉を発することができなかった。

なんと、椿屋敷の生け垣の上に一寸ばかりの男の子が立っていたのだ。男の子と言っても、髪型は月代を剃って髷を結っているので元服はしているようだ。質素だが、綺麗な紺の着物を着ている。お琴は目を見開き、口を開けたまま、男の子を見ていた。

「なんだ?この娘、オイラが見えるのか?まさかな。どうせ、どんぐりが当たって不思議がっているんだろ」

男の子はケラケラ笑いながらお琴を見ている。

こ、こんな小さいのに馬鹿にされたなんてっ!と、お琴は思ったら、ますます怒りが出てきた。

「見えてるわよ!そこの小さき人!」

お琴はビシッと小さい男の子を指さした。お琴の行動に驚いた小さい男の子は目を見開き、口を開けたまま、お琴の指先を見ていた。

「縁談が破談になった私に対して、ずい分失礼なことを言ってくれたわねぇ……」

お琴は仁王立ちで小さい男の子を見下ろす。

「いや、普通はオイラみたいなのを見たら驚いて逃げたりするもんじゃ……」

「普通の私ならね。今は怒りでいっぱいだから、八つ当たりできるなら物の怪でも何でもいいわ。覚悟なさい!」

お琴の表情が般若のように見えたのか、小さい男の子はブルブル震え出した。

「……に、逃げるが勝ちだな!」

男の子はそう言うと生け垣から飛び降り、椿屋敷の中へ走って逃げていった。

「あ、待ちなさい!絶対捕まえて謝らせてやる!」

お琴は生け垣を回って、椿屋敷の入り口の戸を開けて中に入っていった。

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