9.新しいつながり
またリアルな夢を見た。
この前の病院は大丈夫だったのかな。
今日のは、お父さんとお母さんで買い物帰りみたいだ。
お母さんが大きな本みたいなものを持ってる。
なんだか嬉しそう。
お父さん、テレビ見始めたよ。
なんだか普通のことしてる。僕がいなくても大丈夫なのかな。
お母さんが笑顔でなにか書き始めた・・・。
なんだろう・・・。
えっ
僕宛だ。
病院のこと書いてる・・・。
この前の初勝利のこと、書いてる!!
なんで?なんで知ってるの?!
ねえ、お母さん!!
手を伸ばしたところで、また目が覚めた。
僕の心臓はバクバクしている。
お母さんが僕にこの前のこと、教えてくれてる。
不思議だったけど、それ以上にうれしい。
お父さんは大丈夫なのかな。
そうだ。
僕も日記を書こう。
届くかわからない手紙より、読んでもらえる日記。
そう思うと、疲れている体も忘れて書き始めた。
『
お母さん。
今日、僕もお母さんの日記、読みました。
男爵の息子はイスカっていうんだ。たくさん戦ったら、仲良くなりました。
そんなに悪いやつじゃないみたいだよ。
お父さんは、何しているの?
そっちはどうですか。
みんな、元気ですか。
どうなっているのか、知りたい。
簡単に行けそうにないけど、
こうやって話ができることは
とてもうれしいです。
いろいろなこと、教えるから、
いろんなこと、教えてください。
今日は沢山練習したんだ。
僕もちょっとは強くなったみたい。
イスカの脇にまた一本、入れることができたんだ。
あとね・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
』
++++++++++
通勤電車の中。
仕事帰り。残業。
最近洋子に構いすぎてて仕事が進まない。
かなりギリギリの状態だったが、なんとか持ち直しそうだ。
今日は帰りにドーナツでも買っていこう。
洋子と翔太の好きなチョコがかかっているやつだ。
まだ駅まで遠い。少し寝るか・・・。
・・・なんだかガチャガチャうるさいな。
隣のおばさん、そういやなんか持ってたな。
金属のぶつかり合う音?うるさいなぁ。
ジャラッ!!
「イヤァ!!」
バン!!
「・・・ウグッ」
「イスカ、また脇が空いてるよ」
ガチャ・・・カチャ、バン。
「ここで僕が顔を上げるのは、わざとなんだよ。打たせるための。だから・・・」
「イテテ・・・わかったよショウ!!フェイントってやつなんだろ?」
「そうそう、言葉だけ覚えたってだめだよ。僕はこんなことでもしないと、君に勝てないんだから」
「なんでこんなひ弱なやつに負けるんだ・・・もう一回!!」
ショウ・・・翔太?翔太か。
「翔太!!」
いきなり立ち上がって電車の中で大声をあげてしまった。
周りの人が一斉にこちらを見た。
小さく、すみません、と言って、座り直し寝たふりをする。
怖がってか、関わりたくないからか、両側の人が少し間を開けた。
なんだったんだ、今のは。
ショウと聞こえた。イシカ?イスタ?誰だ。
まさか。
帰ってみると、洋子は夕飯を温めなおしている。
「先に食べちゃった。ごめんね」
「いや、気にしなくていいよ。ちゃんと食べてるんだったら、それでいい」
温めなおされた煮物を頬張ってテレビをつける。
さっきのことは半分忘れかけていた。
「そうそう、今日翔太がね。結構男らしくなってて」
「へー」
「模擬戦で初勝利した男の子と練習してるのよ。結構仲良くなったみたい」
「ふーん」
「翔太のほうが一枚も二枚も上手な感じ」
「フェイントだろ?イシカだったかイソカだったか」
「そうそう、イスカって子の脇にバーンて一撃・・・ってあなた」
「なに?」
「私、相手の男の子の名前言ってないわ。どうして知ってるの」
「あ・・・なんで?って言ってない?」
「今日見た日記に初めて書いてあったの。朝は話す暇もなかったし」
そうか。
俺も”関わり合い”を始めたのか。
妄想だ、幻聴だ、という気持ちはもうなかった。
また親子で繋がった感触が心地よい。
「そうか。実は今日俺・・・聞いたんだ」
「聞いた?何を?」
「声、音。そこにいるかのように。練習だったんだろ?イスカってやつが、フェイントにいつもひっかかってるってショウが・・・翔太がからかってたよ」
「そう・・・そうなの・・・」
洋子はそのまま、うずくまって泣きはじめた。
近づいて、抱き寄せる。
「すまなかった。いや、もしかしたら俺ももう足を踏み入れているのかもしれないが」
「いえ、いいの。信じてもらえた?」
「素直に信じる、とはまだ正直に言えない。一回だけだし。でもこのまま俺も聞き続けたなら・・・」
「次、聞いたらすぐに教えて。あなただけ翔太の声を聴くのはずるいわ」
「俺は見えないんだ。ずるいとかないだろう」
もしかしたら、もしかしたら、俺の声も届くようになるのだろうか。