8.2つ目の日記
僕は夢を見た。やたら現実的だった。
お母さんが病院にいて、ベッドで寝てる。
お父さんがそばにいて、少し言い合いをしているようだ。
声が聞こえないと、何がおきているのかわからない。
どうして病院にいるの、お母さんのどこか悪いの。
なんでケンカしているの。
僕は一生懸命叫んだけど、全然声が届いている様子はなく、言い争いは続いていく。
いてもたってもいられなくなって、病室に向かおうとした瞬間、目が覚めた。
「なんか、やだな」
昔、だれかに夢に出てくる登場人物は、そのままの意味じゃなく、別の意味があるんだ、って聞かされたことがある。
だけど今日の夢はすごく現実味があった。
僕が手を伸ばせば届きそうだった。
今でも思い出せる。
いつもの洗剤。お母さんがお気に入りのシャンプー。
お父さんの香水。
触れたい。飛び込んでいきたい。
『
お父さん、お母さん。
今日は不思議な夢を見ました。
お母さん、入院してた。
大丈夫なのか、心配です。
僕がいなくなったせいなの?
どうやって、安心させられるのかな。
全然違うところにいるけど、
僕は生きていて、見守ってますって。
今日は・・・
・・・・・
・・・・・
』
++++++++++
「私、日記を書きます」
帰ってきた玄関で、いきなり俺に言ってきた。
「急に何。でも続いたためしないじゃない。ほら、家計簿とか、体重管理とか」
「何いってるの。私の為だけじゃない。翔太の為でもあるんです」
「ああ、そう。日記は自分を振り返るのにいいっていうし。いいんじゃないか」
昔、翔太にそんなこと言ったような気がする。
「そうよね。少し大きい字で書けるやつがいいわ。翔太も読めるように」
「よくわかんないけど、あの本屋行こうか?文具が充実している」
「ええ、お願い。やる気のあるうちにやんなきゃ」
「三日坊主ってそういう気持ちがダメにするんだけど」
「・・・なんかいった?」
久しぶりに二人でいる家なのか、軽口がどんどん出た。
まるで学校から帰ってきていない翔太を待っているような雰囲気だった。
洋子は早速買ってきた日記をめくると、早速リビングで書き始める。
「ちょっと集中するから、だまってて」
「わかったよ。テレビでもみてるよ」
洋子は1つ深呼吸をして、まるで1つの文章に想いの全てを込めるかのように、カリカリと書き始めた。
『
翔太へ。
これを読んでるなら、
お母さんどんなにうれしいかな。想像できません。
お父さんと色々あったけど、私は大丈夫。
お父さんも、ちゃんとわかってくれて、
今は安心して暮らせます。
病院もたいしたことではないから気にしないで。
もう行くこともないと思うから。
それと、初勝利おめでとう。
その男爵のなんとかってやつ、私嫌いだわ。
またちょっかいだしてくるようなら、
もっとコテンパンにしてやればいいのよ。
あとね・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
』