7.つながり
夏になり、僕の背は少し伸びた。
そして、この学校恒例と言われている競技大会が迫っている。
競技、といってもスポーツのようなイメージではなく、こんな世界につきものの、コロシアムのような場所で戦うやつだ。
僕は気が重かった。
武器や魔法を使う人がそれぞれいるけど、僕は魔法を使えない。
魔法使いはこの世界ではエリートだ。
戦、医療分野、土木建築、さまざまなシーンでニーズがあるから。
だから当然、将来の待遇面も違っている。
ラノベだと、隠れたスキルやすごい能力があったりするし、あってもいいんだけど、僕には適性がないと、はっきり魔法使いの先生に言われていた。
それと、どっちにしても模擬戦もする。
僕はどちらかというと文官タイプになるはずなんだけど、この大会では関係ない。
僕は比較的座学の成績はいいほうなので、武官になるような人には、やっかみ半分、練習のいい標的にされた。
『
お父さん、お母さん。
今日、初めて模擬戦で1勝しました。初勝利です。
相手はどこかの男爵家の末弟。
入学してしばらくしたら、
僕が平民の、商人の出身なのに、
推薦を受けたということで
目の敵にされてしまいました。
あいつ、全然駆け引きになれてなくて、
フェイントにすべて引っかかるんだ。
力が強いから、当たるとものすごく痛いけど、
ポイント勝ちしたんだよ。
お父さんと一緒にやった格闘ゲーム、
「バトルファイター」を思い出したよ。
自分で動くってことはあんなに簡単じゃないし、
ものすごく痛いです。
でも、お父さんが使ってた武士のムサシみたいな
必殺技があると大逆転も狙えるかも。
もう一度、ゲームをしたいな。お父さんと。
次は負けません。
だって僕のほうが実戦で鍛えられてるし。
』
++++++++++
さっきから30分ほど、医者と話をしていたが、なんの進展もない。
哲也はイライラしながら病室にはいると、
いたずらを見つけたような洋子の顔が飛び込んだ。
「勝手にゲーム、買ってたの?」
「え、なんの話?最近ゲームなんてしてないけど」
「そうじゃない、そうじゃないの。私、昨日みた翔太の日記、書き写したの。読んでみてくれない?」
今日はやたら機嫌がいい。
どうなってるんだ、とおもいつつ、書いたメモを読み始めた。
徐々に自分の指が震えていったことがわかる。
「・・・なんで知ってるの?」
「私は知りません。あなたが知っていることでしょ」
「そうだけど・・・そうだけど」
このメモは哲也の理解を超えていた。
翔太と買った「バトルファイター」は、洋子に内緒で買ったゲームだ。
一度ゲームセンターでやったとき、斬るときの描写が生々しいと、洋子が嫌がったので、洋子が留守の時に翔太と示し合わせて遊んでいたからだ。
今も、ダミーのケースに入っていて、それをゲームに興味のない洋子に見られたことはない。
哲也は武士のキャラが一番初心者向き、という理由でよく使っていたが、これは翔太にしかわからない話だった。
「どういうことだ。翔太は、翔太はどこにいるんだ?!」
少し声が大きくなって、相部屋の人がチラチラとこちらを見た。
そんなの、構わない。
「だから、前から言っています。妄想・・・でもいいんです。だけど、翔太はいるんです。どこかに」
「どこかって、どこ」
「私にもわかりません。どこか全然違う世界のようだけど」
もう一度読み返す。
書き方、表現はそれが翔太のものかわからないが、ここに書いてある内容は間違いがない。
「もう一度、もう一度翔太のこと、向こうの翔太のこと、教えてくれないか」
「ええ、どこから聞きたい?」
「とりあえず、ここは出よう。もういい」
「えっ」
「妄想であれ、なんであれ、洋子は安定している・・・と見られるだろう。今日はもう遅いし、手続きもあるだろうから、明日になったら病院に言うよ」
洋子が涙目でじっと見つめた。
「ありがとう。信じていても、信じなくても。認めてくれて、ありがとう」
「いいよ。これからも色々あるだろう。退院したらノートにまとめてみないか。読みたい」
もしもなにか信じることができるなら。
それは信じた人を疑うより、認めたほうがいい。確かにその通りだと思う。認めてしまえば。