5.日記のはじまり
僕の通う、高等学校は全寮制。
年に2回ほど、帰省が認められている。
そんな中、僕は日記を書くことにした。
日記といっても、手紙のように書くつもり。
相手は”お母さん”と”お父さん”だ。
こんなものを家で書いて、もし見つかった時、また昔のことを思い出して、ここの両親は悲しむだろう。
そう思うと、なかなかできなかったが、この寮だと多少おかしなことを書いても、例えそれが誰かに読まれても、適当にからかわれるくらいだろうから。
『
お父さん、お母さん。
元気ですか。
僕は今、セントラル高等学校という所にいます。
ここに来るまでも、今も、とても本を読んでいます。
昔はテレビや漫画ばかり読んでいて、宿題の読書感想文も全然書かずに、よく怒られたことを思い出します。
オムライスが食べたい。
カレーライスが食べたい。
焼肉が食べたい。
家に帰りたい。
お父さん、お母さんに会いたい。
』
これ以上書けなかった。
涙が止まらない。
こんなことに意味があるのかな。
意味なんて求めちゃいけないのはわかってるんだ。
すごくひとりぼっちに感じる。
どうにもならない気持ちだけが溢れてきた。
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あの日から数日後。
洋子は一旦入院という形になった。
家の事情や、背景を医者に説明した。
担当の医者は聞いているような、聞いていないような相槌が打たれた後、一言。
「とりあえず、まとめて検査しますんで」
とだけ返事が返ってきた。
こっちは切実に相談したのに、なんと親身にならない医者か。
哲也は憤りに顔に出たかもしれないが、気にせず診察室を後にした。
こういう施設は難しいな。
この病院は失敗だったか。
色々と哲也が考えながら向かった病室では、洋子が静かに横になっていた。
今はテレビを見ている。
哲也がベッドの横にある椅子に座り、話し始める。
「しばらく検査だってさ。2,3日なのかな」
かなり適当な事を言っていると自覚しつつ。
「ごめんね。迷惑かけて」
それほど気にしていないらしい。
洋子の手を握った。両手で包むように。
しばらくの沈黙の後、洋子から提案があった。
「妄想・・・妄想だったとしても、その妄想が消えるまで聞いてもらえない?」
「少し、変わったことがあったの」
穏やかに話す顔に、すこし微笑んだ。
「いいよ。俺も無理を言った。聞くよ。ショウ君は、ショウはどうなったんだい」
「ショウが日記を書き始めたの。私たち宛てに。あの子は、あの子はまだ、私たちを忘れていないの」
少し、哲也の握った手に力が入った。