表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

12.分岐点

僕は状況が全く分からなかった。

戦場は小雨が降り始め、すこし寒かった。


気が付くと、僕は倒れていた。

汚れてはいるが、傷もないし、大丈夫だ。

確か走り始めてすぐ・・・そうだ。後ろから何かが当たって、倒れこんだんだった。

後頭部が疼く。


僕は倒れたまま、周りの雰囲気を確かめた。

戦線はこちらと反対側にある。このあたりに人が歩いているような音は聞こえない。


戦況はどっちが優勢なのか、さっぱりわからない。

ただの使い捨ての兵隊に、そんなことは知ることもできない。


ただ、とりあえず生き残ってる。

良かった。

ゆっくり、目を開けてみた。

何人かの死体がある。敵か味方かもわからない。


死んじゃったら、どっちでも関係ないよね。

そっと、首だけ回して反対側を向いてみると。


・・・僕と目があった。

少し離れたところに、敵の兵隊が同じように寝ている。

僕に気がついたのか、少しずつ、よろよろと起き上がろうとしていた。


やばい。やばい。

やられる。やられる。


敵は魔法使いだ。

魔法使いは、近接攻撃を想定していない。

鎧というより、当て板のようなものが急所を守っている。

少しでも身軽に速く動けるように、そして静かに動き、遠方から攻撃できるように。


しゃがみこんで、魔法の詠唱を始めたみたいだった。


何かくる。

どうしよう、どうしよう。


魔法の詠唱には時間がかかると思われているが、それは魔法の強さに比例するらしい。

大魔法使いになると、厳重な警備に囲まれ、大規模魔術を展開するそうだ。

僕も魔法が使えれば、こんな命の軽い前線にもいなかっただろうな。

僕も後方で敵を蹴散らし、結果的に守られて命拾いをしたかもしれない。


だから、あの魔法使いも、僕をなんとかしようと思うだけなら、詠唱は十数秒くらいでいいはずだ。

顔を焼く、体を刺す、後で止めを刺すには、そのくらいの威力は十分にある。


僕は槍は持ち続けていた。

いけるかな。


出来る限りの速さで立ち上がり、構えようとした。

でも、間に合いそうになかった。


敵の詠唱がもう、終わっていた。


「・・・飛べ、火の玉よ!!」


そう叫びながら立ち上がった途端、彼は倒れ、飛び出した火球は大きく逸れた。

彼には片足がなかった。


僕はもうら無我夢中だった。

両親のこと、家のこと、なにも関係なかった。


死ぬ。殺される。

恐怖が叫び声になって出てきた。


「ううううわあああああ」


握り続けていた槍をがむしゃらに投げた。

投げた槍は、意外にもきれいな直線を描いて相手の喉に刺きささり、貫通した。


彼は槍が刺さった瞬間、体が硬直し、そのまま仰向けに倒れて動かなくなった。

目は最後まで翔太を見ながら、倒れていった。

うまくいくはずだった、というかのように。


「うわああぁああぁ・・・」


翔太はしばらく立ち続けていたが、声が漏れ出た。

取り返しのつかないことをした、と気が付いた。


人を殺した。


++++++++++

洋子が泣きながら話しかけてきた。


「助かった・・・みたい。でも」

「ああ。助かったけど・・・」


人を殺した。

ふたりはその言葉を出せない。


「正当防衛・・・なのよね」

「こっちではそうだ。でも、翔太がそんな一言で納得するか。中学生なんだぞ、あいつは!!」


「じゃあ!!どうすれば!!いいのよ!!」


洋子は泣き叫びながらベッドに倒れこむ。

こんなに無力だとは思わなかった。

お互いになにかで繋がっていれば、困難も乗り越えられると思っていた。

実際には、直接触れることすらできない状況で、何ができたというのか。


「俺にだってわかんないよ」


返事はない。

しかし。


「日記を書いてくれ」

「・・・なんて書けばいいの。私書けない」

「なんでもいい。書いてくれ。一緒に考えるから」

「あなたが書きなさいよ。なんでもやれやれって・・・私はできません!!」


俺は黙って立ち上がり、リビングに向かっていった。

そして、あの日記を取った。

数分、白紙のページに向かい、書き始めた。


 翔太。


 辛かったと思う。

 ごめん、お父さんも、お母さんも、

どんな風に書いていいかわからない。


 でも、生きていてくれていること。

 本当に嬉しく思っている。

 殺されなかったこと、死ななかったこと

本当に良かったと思っている。


 翔太が大変な世界にいて、

大変なことに巻き込まれている。

 お父さんもお母さんも、何もしてあげられない。

 ごめん。


 でも、お父さんたちは、

翔太が、生きていてくれさえすれば。


 生きていれば、それだけでいい。


それ以上は書けなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ